2016年は「VR元年」。
VRは一気に身近な存在となりました。仮想現実空間がデータ化され、新たな機器やコンテンツを次々に発表。高画質で安価なVR対応機材が発売されるなど、話題に事欠かない1年であったことは記憶に新しいと思います。様々な業界、企業がすっかりVRに夢中になりました。
年が明けて2017年。
まだ1か月も経っていませんが・・・VR関連のニュースを見ない日はない!毎日毎日、よくこんなに話題があるものです(笑)それだけ世界中が注目している市場だということですよね。
世界の注目といえば2017年1月10日、米国オバマ大統領の退任演説が全世界に生中継されました。みなさんはご覧になりましたか?この世界的ニュースの報道にもVRが活用されました。海外メディアVRScoutは、1時間14分1秒に及ぶ退任演説の全容を撮影した360度動画を、YoutubeやFacebook等を通じてライブストリーミング配信。演説内容はさておき、歴史的瞬間を文字通り360度、死角ナシで目にすることができました。
そして1月20日にはトランプ時期大統領の就任式。USA TodayがYouTubeで、やはり360度動画ライブストリーミングで公開することを発表しています。
2017年のVR動向で「360度」はどうやら外せないキーワードになりそうな予感。どんな場面で360度撮影のVRが活用されているのか、気になりますねぇ。
そこで今回は、「360度撮影のVR」に注目してみたいと思います!
誰もが360度コンテンツを活用できる時代に
視聴も簡単!360度コンテンツが身近になってきた
パソコンのみならず、スマートフォンの処理能力や機能が飛躍的に進化したおかげで、誰もが360度コンテンツを簡単に体験できるようになりました。360度コンテンツは視聴方法も至って簡単!パソコンから視聴する場合は、マウスで画面をドラックすることで再生画面を傾け、回転させることができます。スマートフォンやタブレットでは、機器の傾きや回転に合わせて再生画面が連動して傾き回転するので、特別な操作すら必要ありません。
360度コンテンツを活用すれば仮想空間の疑似体験が可能になり、商品やサービスのディテールを簡単に紹介できるようになります。通常画像では撮影漏れやアングルの制限があって相手にイメージが伝わりづらい場合もあります。しかし360度コンテンツなら、より効果的に、正確に細部まで伝達することができるのです。
360度撮影が可能なカメラも比較的安価になり、3万円程度で買える機種も登場しました。ただし、カメラ本体やレンズの他、スタンド等の機材や閲覧用データに変換するための専用ソフトウェアなどが必要で、実際にはもっと費用がかかりますが・・・
いずれにしても、360度コンテンツが利用者にも提供者にも、身近になってきたことは間違いありません。
ざっとおさらい、VRとAR
今さら説明するまでもないかもしれませんが、ここでざっとおさらいです。
VRとはVitual Reality(バーチャルリアリティ)のこと。人工的に作り出された仮想現実で、あたかもその場所にいるかのような感覚を体験可能にする技術です。全周囲に視線を動かして楽しめる360度画像や動画のコンテンツは、VR、あるいは仮想現実のひとつと言えます。
VRとよく比較されるARとは、Augmented Reality(オーグメンテッドリアリティ)のこと。拡張現実と訳されます。現実の風景(実写)に異なる情報を重ね合わせることで、現実世界を拡張しようという概念です。
2016年7月にリリースされ世界的ブームとなった「ポケモンGO」。現実の地図上に、ポケモン出現という異なる情報を重ね合わせる、拡張現実を利用したARアプリケーションだと言えます。国際的調査会社IDC(International Data Corporation)発表の市場予測(※)によると、VR/ARの市場規模は2020年には1620億ドルまでに成長すると見込まれています。この成長予測を年率成長率に換算すると年率181.3%になるとか。ほぼ200%って、2倍ですよ2倍!「ポケモンGO」による貢献はかなり大きいでしょう。スマートフォンの進化によって安価なモバイル型VR/AR機器が実現し、VR/ARの新市場が誕生したとも報じています。一方で、もう少し低い予測を出しているメディアもあり、不透明な状況はもうしばらく続きそうです。
※出典:IDC
360 度動画とVR
今注目の 360度動画とVR。一体、どう違うのでしょう?
分かっているようで実はハッキリ分からない・・・という方のために、ここでざっくりご説明します。
360度動画(画像)とVRの違い
パソコンやモバイル端末を使って、視点を 360 度動かして楽しめる動画を見たことがありますよね?これらは「全方位動画」と呼ばれ、「360度動画」と「VR」という 2 つのカテゴリがよく知られています。360度動画とVRは、いずれも360度全方位を記録できるカメラで撮影されます。ではどう違うのか?この2つの大きな違いはズバリ、「視聴するときにヘッドセットを装着するかどうか」という点です。
360度動画の視聴に小道具は不要
例えばYouTubeで「360度動画」を見るためには、ヘッドセットなどは必要ありません。パソコンかスマートフォンがあれば十分。ヘッドセットを装着せずに、簡単な操作で全方位からの動画を見ることができます。パソコンの場合はマウスでクリックやドラッグして視点を動かします。スマートフォンやタブレットの場合は、画面を指でスライドするか、スマートフォン自体をさまざまな方向に動かします。360度動画を見るために特別なアクセサリーは必要ありませんが、Google Cardboard などの簡易アクセサリーを使用することもできます。視点を動かすことはできますが、画面は平面的です(モノスコープ)。
VRの視聴には視聴用機器が必須
これに対しVRでは、ヘッドセットやHMDなどを装着して視聴します。「自分がそのシーンの中で動いている」感覚になりますが、これは視界全体を視聴用機器で覆っているためです。HMDをよく見ると、画面は左右2つに分割されています。現実と同様に左右の目に見える映像が微妙に異なるのです。これによって奥行きのある、立体的な映像になります(ステレオスコープ)。これは単なる 360 度動画では味わえない感覚です。
もともと、すべてのVRは 360度を見渡せるように撮影されています。ただ、VRではヘッドセットなどの使用が必須であるのに対し、360度動画では必須ではありません。したがって、必ずしも360度動画=VRであるとは言えないのです。
360度視点を変えて視聴できるという点は、360度動画もVRも同じです。視聴者側の判断としては「ヘッドセットなどの装着が必要な動画はVRだ」と考えていいと思います。
どんな場面で活用されているの?
「360度コンテンツ」はどんな場面で活用されているのでしょう?
映画やゲームなどのエンターテイメント業界はかなり先進しているように思いますが、それ以外にも360度コンテンツの活用は進んでいます。視聴者にただコンテンツを見てもらうだけでなく「体験してもらえる」という点で、非常に効果的だからです。
どんな場面で活用されているのか、具体的にチェックしてみましょう。
ドキュメンタリー
360度動画とVR動画は、ドキュメンタリーにおいて非常に大きな効果を発揮すると言えます。動画によって真のリアリティや他者の苦しみを伝え、感情移入させることができるからです。視聴者を単なる傍観者にしておきません。また、撮影さえできるなら、戦場等の危険な場所や北の某国のように通常では立ち入れない場所にまで視聴者を招き入れることもできます。ストーリーの説得力を高めるのに非常に有効な手段なので、映画のみならず、ニュース映像などにも広く活用されています。
ミュージックビデオ、プロモーションビデオ
ミュージックビデオは常に実験的な動画制作の最前線だと言えるでしょう。アーティスト自身のセンスをふんだんに取り入れた楽曲紹介や、ファンへのメッセージを表現することができ、視聴者の楽しみ方も広がります。大好きなミュージシャンのライブパフォーマンスを自宅で体感できるなんて!しかも完全に独り占め。自分も同じステージに乗っているかのような感動を、思う存分味わい尽くすことができるのです。
アクション・スポーツ
壮観な映像が多いと、360度動画とVR動画の効果はひときわ高まります。空中、水中、高所や地底、あるいは吹雪、荒波など厳しい気象条件や、激しい動きのスポーツとは特に相性が良さそうです。すでに米国NBAではVR動画をライブストリーミング配信し、話題を呼んでいます。スキー競技など、なかなか近くで見ることができないスポーツ中継にも向いていますね。
また、試合そのものだけでなく、通路やロッカールームなどの舞台裏や、選手ベンチ、ゴール際など、自分が選手の一人であるかのような視点で視聴できるのも、ファンにはたまらないサービスとなっています。日本でも2016年3月より、プロ野球の横浜DeNAベイスターズが「Gear VR」を用いて360度コンテンツ提供サービス「360(さんろくまる)ベイスターズ」を実施しました。ベイスターズファンには大好評で、今後さらにこのようなファンサービスが増えるかもしれません。
不動産、建設業
360度コンテンツを利用して、効果的に物件の間取りを紹介するVR内見サービスが実際に行われ始めています。平面的な画像に比べて、室内空間が一目瞭然で伝わりやすいのです。クライアントは、まるでその物件を訪問しているかのような臨場感を味わうことができ、さらなる興味を引き出すことにつながります。
そして何より、現地へ足を運ぶ手間が省けることも重要なポイントです。国土の広い米国などでは、物件探しの移動に飛行機を使うケースもあります。数軒下見をするだけで何日もかかってしまうところを、360度コンテンツを利用すればわずか1時間で済ませることも可能になります。
建設業界では、360度画像や動画で撮影することにより、建設中の建物の天井裏や床下など従来見えにくかった部分まで状況把握が可能になりました。特に夢のマイホームの建築となれば、進捗状況も知りたいですよね。そんな痒い所に手が届くサービスを提供できる一助となりそうです。
今後有望な分野は?
360度コンテンツは今後、実に幅広いジャンルで取り入れられる可能性があります。
例えばブライダル産業におけるリゾートウェディングのイメージ動画や、観光地などのPRには、すでに多く活用され始めているのでここでは省きますが、需要はさらに広がりそうです。
中でも今後特に注目したいのは教育分野です。VRは、ただの動画をインタラクティブな学習ツールに変える可能性を秘めています。例えば天体観測。顕微鏡でしか見られないミクロの世界。難しい手術の実習など、医療現場でも非常に役立つと考えられます。また、世界遺産を巡る歴史の授業などは、実際に米国で行われているようです。いくら史跡に興味があっても、実際に生徒を連れて世界遺産を巡るのは授業としては難しいですよね。VRなら実物をその場にいる視点で見ることができ、さらに言えば、当時の歴史を追体験することも可能です。
実際に見ることが難しいものを、VRで「体験」させる。それが、理論だけでなく実践を伴った教育につながっていくのです。
※斜視になるリスクがあることから、子供は二眼のVRビューワーの使用を避けるべきとの注意喚起が出ています。適用年齢等の詳細は、各発売元メーカーの発信情報でご確認ください。
VR360度コンテンツ 最新ニュース
映画「猿の惑星」をテーマにしたVRコンテンツを制作中
海外メディアUploadVRは2017年1月12日、映画「猿の惑星」のVRコンテンツが制作中であると報じました。同メディアによると、先日開催されたCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー/Consumer Electronics Show) 2017の会場で、20世紀Foxの関係者が認めたというのです。CESは、全米民生技術協会 (CTA) の主催で、ネバダ州ラスベガスで毎年1月に開催される見本市で、一般公開はされていません。
映画「猿の惑星」シリーズの1作目が公開されたのは1968年。来年2018年でちょうど50周年を迎えます。また、今年はシリーズ最新作「猿の惑星:大戦記」の公開も控えており、同シリーズ初のVRコンテンツを制作・公開するには正に絶好の機会とも言えます。20世紀Fox関係者は制作中であるという以外は口を閉ざしていましたが、デモコンテンツはOculus Riftで動作するとのこと。
同配給会社は「猿の惑星」以外にも、「エイリアン:コヴナント」、X-MENシリーズ最新作「ローガン」のVRコンテンツを制作しているとされています。
1億ドル以上の製作費をかけ大規模宣伝を行ういわゆるハリウッド・ブロックバスター映画と、VRコンテンツのコラボレーションは今後どのような形に落ち着くのでしょうか?360度動画スタイルが定番となれば、もの凄いリアリティと迫力と、リアリティを超えたある種の怖さをも伴った作品に仕上がることは間違いありません。それこそ大げさな話ではなく、どの映画館でも入場時にVR酔い対応のエチケット袋が配られることになるかも・・・?
360度VR動画で気付く、こんな自転車運転が実は危ない!
JAF(一般社団法人・日本自動車連盟)では、360度VR動画を利用して、自転車の運転についての注意喚起を行っています。本来自転車は「クルマ」の仲間。原則として車道を走らなければいけません。車道上での自動車との事故に注意することはもちろんなのですが、近年では歩行者との事故の割合も増えています。歩行者と衝突して重大な人身事故に至った例も少なくありません。自転車は、被害者にもなるし、加害者にもなってしまうのです。
そこで、自転車目線で撮影した360度VR動画を使って、自転車の安全な走り方を考えようという試みがこちら。
『360度VR動画で気付く、こんな自転車運転が実は危ない!』
このVR動画はYoutubeにアップロードされていて、パソコンやスマホからの視聴も可能です。HMDを使用したVR視聴にも対応しています。①まずは視点を変えず、前方だけを見ている動画を再生、②次に左右・後ろにも視点を変えながら再生する、という視聴方法がおススメです。360度視点を変えて見ることで、どんな危険があったか、全方向から確認できるのが最大のポイント。事故を未然に防ぐ運転とは何かを考え、実践することに役立ちます。
こういったコンテンツは、教習所や免許更新時の安全講習でも有効だと思います。ぜひぜひ導入てもらいたいところです。
Nintendo SwitchがVR対応に?(←希望)
北米メディアがNintendo Switch(以下、にSwitch)に関する特許の中に、本体部分をヘッドセットに装着するといった概要が描かれていると明らかにしました。これは2017年のVR動向に影響を与えそうですね!特許申請はあらゆる活用方法を想定して行うので、実際に事業化されるかどうかは不明で、可能性のひとつとして示されたに過ぎませんが・・・。
Nintendoと言えば『スーパーマリオブラザーズ』シリーズ。この作品がVR上でどれだけ面白い(と想定される)かは、既にOculus Rift専用プラットフォーム型アクションゲーム『Lucky’s Tale』が示した通りです。めちゃくちゃ面白そうなんですよ、これが!そして、Switch用として既に展開が決定している『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』がVR対応になったときのファンの興奮も、想像に難くありません。
それどころか、実はかくいう私も、歴代の『ゼルダの伝説』シリーズに一体どれだけの時間を費やしてきたことか・・・危なく人生を捧げてしまいそうでした(笑)
もし本当にゼルダの伝説がVR対応になったら、私が音信不通になってもどうか探さないでください。リンクに成り切って没入しているに違いありませんので・・・
それはさておき、Nintendo Switchの動向は1ゲーマーとしても目が離せません。
都会人の孤食を解消?!バーチャルならぬ『バーチャン・リアリティ』
ゲームやエンターテインメント界での活用が目立つVRブームの中で、一風変わった使い方をした自治体がありました。その名も、バーチャルならぬ『バーチャン・リアリティ』。
この特徴的なVR動画を製作したのは、瀬戸内海・淡路島にある南あわじ市。田舎でおばあちゃんや家族の温かさに触れ、地域の料理を目で楽しみながら、あわじ国の「誰かと」一緒に食事をしようというもの。都会人の悩みである「孤食」を改善するための試みです。あわじ国の料理を準備し、食べる前に簡易VRヘッドセットを着用すると・・・。わー、おばあちゃん!!(笑)
同時に、あわじ国の特産物を使ったレシピ動画も公開しています。VR動画の中でふるまっている食事の中に、レシピ動画で紹介されている料理が含まれているのがまたリアルです。あわじ国は、食料自給率170%を超える豊かな食の国。淡路ビーフや淡路島たまねぎ、とらふぐなど、食材の宝庫です。レシピ動画内の特産食材はふるさと納税の返礼品にもなっています。
一見冗談のように見えますが、いたって真面目なこの企画。名古屋大学大学院の中田龍三郎博士によると、一人で食事をする時に、鏡を見ながら食べる疑似共食体験の方が、よりおいしく感じるとの実験結果が出ているのだそうです。VRでも同等の効果が考えられるとのこと。あわじ国の美味しい料理を作って、あわじ国の温かいおもてなしを、VRでどっぷり楽しんでみてはいかがでしょうか。この機会に、ふるさと納税にトライしてみるのもまた楽しいですね!
まとめ
いかがでしたか?
VRはより身近に、そして敷居が低いものになってきました。高画質化が進み機器の価格も下がり、活用の幅がさらに広がっていくと考えられます。360度動画に加え、サウンド、振動、匂いまでも仮想空間で表現できるようになっていけば、より高度なVRの時代がやってくるでしょう。
将来的にはIoT(Internet of Thing)と融合し、人間の手を離れてコンテンツが撮れる時代がやってくるかもしれません。いま話題のドローンと組み合わせれば、想像以上に近い将来に実現したりして・・・!
VRの可能性は、どんどん大きく広がっているのです。
VR関連のサービスはRobots Visible