「作れるもの」から「作りたいもの」へ。3Dプリンターの未来を探る

あなたのご自宅に「プリンター」はありますか?

そうそう、パソコンで作った文書とか年賀状を印刷するアレです。まさに一家に一台といった具合で普及しています。価格もだいぶ下がり、4Aカラー印刷ができるインクジェットプリンターで数千円。1万5千円も出せばスキャナ機能まで付いた、けっこうちゃんとしたプリンターが買えるようになりました。

 

では、「3Dプリンター」はどうでしょう。

3Dプリンターとは、一言で言うと「立体的な造形物を出力できるプリンター」のこと。

モノづくりがお好きな方はご存知かもしれませんが、あまり縁のない方にはイメージが沸きにくいですよね。

 

何となく聞いたことはあるけど、3Dプリンターって何に使うのか分からない。

3Dプリンターでどんなことができるのか知りたい!

試しに使ってみることはできないの?

 

と思っておられる方も多いのではないでしょうか。

お任せください!そんなあなたのために、3Dプリンターとは一体どんなものなのか、最新の業界動向も含めてドドンとご紹介いたします。

 

 

1. 「3Dプリンター」って、一体何ですか?

 

1-1 3Dプリンターの概要

 

(1) 3Dプリンターとは

3Dプリンターは3次元の立体造形物を印刷(作成)することができるプリンターです。これに対し「紙」に印刷する従来のプリンターは、2Dプリンターと呼ぶことができます。

 

3Dプリンターは「立体を薄い輪切りにして、それを重ねる」と捉える仕組みのプリンターです。物理的に成立する物体であれば、事実上どのような形状でも造形が可能。従来の2Dプリンターが持つ「縦」と「横」の位置情報に加え、「高さ」方向の動きを加えたものだとイメージいていただければ、何となくお分かりいただけるでしょうか。

 

(2) 3Dプリンターで使う材料と造形方法

 

従来の2Dプリンターで使用する材料は「インク」です。これに対し3Dプリンターでは、一般的に「樹脂(プラスチック)」が使われます。機種によって使用できる材料が限られますが、本格的な工業用3Dプリンターではチタンなどの金属やゴム素材なども使えます。

 

3Dプリンターの造形方法は、10種類以上ものさまざまなタイプが存在します。現在の家庭用3Dプリンターでは、プラスチック樹脂繊維を熱で溶かして一層ずつ積層し固めながら印刷する「熱溶解積層法(FDM)」が主流です。また、より精度の高い先進的な造形方式「レーザー焼結法(SLS法)」を利用したものも増えています。「レーザー焼結法」は粉末状の材料にレーザー光線を高出力で照射して焼き固める造形方式で、複雑なデザインの造形や金属素材での造形が可能です。

 

(3) 設計図は3Dデータ

 

3Dプリンターで物体を造形するためには、CGソフトや3D-CAD等のソフトウェアを使ってパソコン上で3D形状を作成します。この設計図となる3Dデータを、3Dプリンターに送信することで印刷が可能になるというわけです。

 

パソコンで3Dデータを作ることができれば、欲しいものを何でも作ることができます。何でも、というと少々語弊がありますが、例えば、あと1mm短いネジが欲しい場合や、失くしてしまったプラモデルの部品、お気に入りの色や模様をプリントした完全オリジナルのスマホケースなども作れますよ!

 

1-2 これまでのモノづくり

 

私たちの身の回りのモノが、どんな方法で作られているかご存知ですか?

あまり意識していないかもしれませんが、主に下記のような方法で作られています。

 

①「切削加工」

材料の塊を1つずつ刃物で削って形を作る方法です。大量生産には向かないことが多いですが、作業者のスキルによっては非常に精巧な加工を施すことが可能です。

 

②「射出成形」

2つの金型の間に液体状の樹脂を流し込んで形を作る方法です。金型を作るための費用は掛かりますが、大量生産の際は1個当たりの単価が非常に安くなります。

 

この他に「板金」や「プレス成型」といった、昔ながらの金属加工を中心とした造形方法もあります。これらの造形方法で作られたいくつもの部品を組み合わせ、1つの製品となっているのです。

 

「モノ作りには高度なスキルが必要だ」というイメージがありますよね。切削加工でも射出成形でも、実際の削り出しや金型を作る工程はやはりプロの仕事。仮に詳細な図面や3D-CADデータがあったとしても、ズブの素人がいきなり金型を作るのはちょっとムリです。材料だって、どこで買ったらいいのか見当もつきません。そういった意味からも、これまでのモノづくりは「高度なスキルを持った職人の仕事」だったのです。

 

1-2 「欲しいもの」を作るツール

 

しかし3Dプリンターの登場により、その概念は大きく変わりつつあります。

これまでの造形方法は、「作れるものを作る」のであって、「作りたいものを作る」のではありませんでした。「安価」で「入手しやすい」という、大量生産の恩恵を享受してきた歴史があるのです。

一方で、作りたいものがあっても、それを自分で形にすることは難しい環境でした。一般個人は金型を成形する技術も工作機械も持っていません。形にしたければ別に料金を支払って、製造のプロに依頼するしか方法がありませんでした。完成イメージを正確に伝えることも難しく、思い通りに造形してもらうには時間もお金もかかっていたのです。

 

3Dプリンターは、この歯がゆい状況を一変させました。これまで不可能だった「希望する形状を、そのまま造形する」ことを実現したのです。自宅で簡単に、しかも自分でできるのです!

3Dプリンターによる造形は、職人のような専門的なスキルは不要です。3Dプリンター自体の操作方法を知る必要はありますが、それは普通の家電製品を取り扱うレベルです。設計図となる3Dデータは、複雑な曲面を持つ形状を作成するにはある程度の技術を必要としますが、単純なものならほんの少し勉強するだけで誰でも作れるようになるでしょう。

「職人でなくても造形ができる」ようになったことは、非常に画期的だと言えます。

 

 

2. 3Dプリンターの最新動向

 

3Dプリンターがどんなものなのか、だいたいお分かりいただけたでしょうか。

本章では、3Dプリンターの最新動向をご紹介します。

 

2-1 海外の3Dプリンター動向

 

① すべてを3Dプリンターで作った「3Dオフィス」

2016年5月、ドバイのエミレーツタワーの隣りに驚きのオフィスが誕生しました。イスやテーブルだけでなく建物そのもの、オフィスまるごと全て3Dプリンターで作られているんです。しかもすごくオシャレ!デザイナー顔負けです。

この3Dオフィスは、高さ約6.1m、長さ37m、幅12.1mの特注かつ特大3Dプリンターで出力されたもの。外壁には、強化繊維プラスチックとガラス繊維強化石工を原料に含んだ特別なコンクリートが使われていて、建物としての強度も全く問題ありません。約250坪(826.5平米)もの広さを着工からたった17日で完成させたというのも驚きです。建設に関わった人員は3Dプリンター専門家1名と、職人・電気技師17名の合計18名のみ。80%の人件費の削減に成功しています。

最近ではドバイ以外にも、各国で3Dプリンターを用いた建物、乗り物などの制作が試験的に進んでいます。例えばシンガポールでは、3Dプリンターで公共住宅建設を企画しています。また、中国では3Dプリンターで出力したボートが話題になっています。今後の建物や乗り物の一部は、3Dプリンターで安価で簡単に作れるようになるかもしれません。

 

② 美の世界でも3Dプリンター

美容界で、肌色をスキャンして自分に合った化粧品を提案してくれるサービスが話題となりました。この時から、メイクの世界もテクノロジーによって刻々と変化していると感じていましたが、それどころではありません!

検出した肌色に合わせて最適な色合いのファンデーションをブレンドし、その場で出力してくれる「Adorn」は、ペン型のポータブル3Dプリンター。検出した肌色を元に、その時の状態に合わせて7万5000色のファンデーションを出力できるというから驚きです。本体価格約15,000円、交換用カートリッジは2,200円ほどです。肌の状態や色合いは、季節や体調によって微妙に変化するもの。およそ30%の女性はファンデーションが自分の肌色に合っていないと感じている中、ジャストマッチなファンデーションを作れるのならこの値段、決して高くないのかも・・・あなたはどう思いますか?

 

③ 医療分野での活用

2016年6月、独シュツットガルト大学などの研究チームは、超小型の医療用カメラを発表しました。わずか100マイクロの塩粒大の極小カメラで、しかも3Dプリンターを使って出力されたものなのです!レンズは「direct laser writing」という3Dプリンティング方式で作られており、対象物より3.0mmの距離からフォーカスを合わせることができる精度のカメラ。光ファイバーを通じて撮影画像を転送することも可能です。将来的には、注射針に取り付けて臓器や脳の内部を撮影するといった、驚くべき応用が可能になるかもしれません。

 

また米ハーバード大学は2016年10月、3Dプリンターを使って心臓の生体組織を基盤上に再現する「チップ上の心臓」を世界で初めて製作したと発表しました。生物医学研究は長年にわたって動物実験と細胞培養に頼ってきましたが、最近ではチップ上に人間の器官の構造と機能を人工的に再現する「マイクロ生理学システム(MPS)」が注目されています。こうした3Dプリンティングを活用した人工デバイスが研究分野で利用されれば、実験動物の命をより多く救うことができるでしょう。

 

さらに、米ノースウェスタン大学の研究者たちが、3Dプリンターでつくる新素材「超弾性骨」(HB:Hyper-Elastic Bone)を開発しました。一度皮膚の下に移植されたこの新しい素材は、新しい骨を作る土台、あるいは完全に別の骨の代替として機能するというのです。柔軟性があり、簡単に形成できるという特徴もあります。現段階ではまだ人体ではテストされていませんが、5年以内に臨床試験開始を目指しているそうです。3Dプリンターは、再生医療の分野でも注目されています。

 

2-2日本の3Dプリンター動向

 

① 3Dプリンター定額利用サービス「ラクツク」

3Dプリントサービス事業で挑戦を続けてきた株式会社アイジェットは、2016年10月から設計図も一緒に提供する3Dプリンタサービス「ラクツク」をスタートさせました。3Dプリンターが個人に普及しない理由は、購入後のアフターサービスの少なさが問題であるとも言われています。その問題を解消するのが「ラクツク」です。

 

「ダヴィンチ 1.0 Pro」をベースにしたオリジナルモデルの3Dプリンター本体の購入と、サービスコンシェルジュ、3Dデータコンテンツの配信、Webマガジンをパッケージ化した月額6,900円、24回払いの定額サービスです。プロスタッフによるカスタマーサポートが受けられる他、各種設計図やCAD、CGソフトのトレーニングができるプログラムを配信予定とか!自分で設計図を作れるようになれば、例えば片方だけ失くしてしまったピアスを自分で作ることも、手軽にできるようになるかもしれません。「知識がなくても使える」これが3Dプリンター普及のキーワードだと言えそうです。

 

② 3Dプリンターを持たない人向けサービスの拡充

数年前までは個人ではとても手が出なかった3Dプリンターも、今では価格も下がり、容易に購入できるようになりました。ここ最近で最も低価格な3Dプリンターは、2016年11月に日本に初上陸した「TRINUS」でしょう。簡単な組み立てが必要ですが、専門的知識は不要。さまざまな材料に対応しています。ヘッドを交換すればレーザー彫刻機としても使用できます。こんな本格的な3Dプリンターが3万円台で買えるなんて!1台一千万円もしていた当初からは考えられない値段です。

でもいきなり買うにはちょっと勇気が要りますよね。試しに使ってみたいという方のために、3Dプリンターを気軽に利用できる場所があるんです。

 

東京渋谷の「FabCafe」はモノづくりを気軽に楽しむためのカフェ。本格的なサンドイッチやスイーツをいただきながら、3Dプリンターや3Dスキャナを気軽に利用できるんです。30分1500円程度の利用料で予約も可能。3Dデータを予め用意していなくても、iPadを借りてその場で手書きのデータを3Dプリントすることもできます。

 

3Dプリンター出力サービスを行っている会社もあります。

「3Dayプリンター」は、その名前の通り3Dプリントを最短3日で届けてくれるという心強い3Dプリント出力サービスです。価格も業界最安クラスで、まだ珍しい樹脂のフルカラープリントサービスも行っています。

オンライン印刷の老舗「グラフィック」は、11種類もの多様な素材に対応してくれる3Dオンライン出力サービスを展開。AIデータを3Dデータ化してくれるという珍しいサービスを行っているのは、同社の顧客にグラフィックデザイナーが多いせいかもしれません。

 

また、3Dプリンターの設計開発から販売を行う「Genkei」は、2016年5月、3Dプリンターのレンタルサービスを開始しました。レンタル対象は同社の「Lepton」と「Trino2」の2機種。Leptonは、日本初のオープンソース3Dプリンター「atom」の後継機として開発された純国産の3Dプリンターです。純国産って、何だかちょっとうれしくなってしまうのは私だけでしょうか?

 

3Dデータ作成を含め、3Dプリンター本体を持たないユーザー向けの新たなサービスは、今後さらに充実することが予想されます。IT専門調査会社IDC Japan の発表では、2015年の国内3Dプリンティング関連サービス売上額は前年比2.2倍に成長しているとのこと。個人ユーザーのみならず、企業の試作品製作も増加しているようです。

 

③ 3Dモデリングと3Dプリントを組み合わせたニット「AMIMONO」(アミモノ)

 

株式会社バンダースナッチが運営するSTARted(スターテッド)は、イラストをアップロードするだけでアパレルアイテムが作れるオンラインファクトリー。3Dモデラーの小野正晴氏のブランド「Free-D」と共同で、3Dプリンターを使った衣類の共同開発を進めています。それが3Dモデリングと3Dプリントを組み合わせたニット「AMIMONO」(アミモノ)です。

 

セーターのように糸を編んだ状態のパターンを付与すると、糸状の3D構造物が出力空間でプリントされていく新工法で、これをTPU素材で出力します。TPUとは、熱可塑性ポリウレタン、ウレタンゴム、ウレタン樹脂とも呼ばれる高分子化合物。ゴムのようにしなやかな弾力性と硬質プラスチックのような強靭さを合わせ持つこの素材を使用することで、伸び縮みして、たたむこともできる服を3Dプリントすることが可能になりました。

 

3. 3DプリンターのNG項目

3-1  3Dデータさえあれば何でも作れてしまう?

理論上は「何でも作れる」3Dプリンター。技術が進み、いろいろなものが作れるようになりました。

しかしながら、何でも作れるわけではありません。そして、作っていいわけでもないのです。

そのあたりをちょっと詳しくご紹介します。

 

① 3Dプリンターで銃を作成

2014年5月、国内で初めて「3Dプリンターで銃を作成して逮捕される」という事件が発生しました。

3Dプリンターを使えば確かに精巧な造形が可能です。しかしFDM(熱溶解積層法)方式の個人向け3Dプリンターで扱える素材は、主に樹脂やプラスチックです。強度が低く、銃などを作ったところで発射自体が危険なことは、少し考えれば分かることだと思うのですが・・・。いろいろな意味で衝撃的な事件だったと思います。

 

改めて言うまでもなく、日本は拳銃などの所持、売買、製造を禁じています。そもそも設計図となる銃の3Dデータが公開されていること、それを容易に入手できること自体も大きな問題ですが、取り締まり方法を含めた法律の整備など、新たな対応が必要になるでしょう。

 

② 3Dプリンターで作ってはいけないもの

実際に使えるかどうかはともかく、3Dプリンターで作ってはいけないのは銃だけではありません。殺傷力のある刃物など。貨幣や印鑑、鍵、社員章(警察官のエンブレムや議員バッジ等、身分を表すもの)もNGでしょう。

作った段階で罪に問われるものあれば、販売や実際に使用するなど、人前に出したらアウトというものもあります。個人的な趣味で楽しむという範疇を超え、人を傷つけ、人を騙す目的で使われる可能性が限りなく高いと判断されるためです。

 

わざわざ「いけない」と言われるまでもなくモラルの問題だと思うのですが、作ってしまう人がいることも事実です。3Dプリンターが一般家庭に普及し、小さな子供が自由に使えるようになるということも、想定しておかなければなりません。

また、わいせつ物に相当するフィギュアやグッズ、不正入手した情報を使って造形したものなども問題になってくるでしょう。今はまだ前例がなくても、これらは時間の問題です。

 

 

4. 3Dプリンターの今後

 

4-1 3Dプリンターにもジェネリックの波

 

「ジェネリック医薬品」をご存知ですか?特許が切れた医薬品を、他社が安価で作成したものを指します。後発医薬品とも呼ばれ、多く出回っています。それと同じことが、3Dプリンターの世界にも起こっています。主要な特許の期限切れとともに低価格化が進み、ブームが沸き起こるという歴史を繰り返しています。

 

① 「レーザー焼結法」の特許切れ

最初の3Dプリンターブームは2005年、3Dシステムズ社所有の基本特許が切れたことがきっかけで起こりました。そして2009年、ストラタシス社所有の熱溶解積層法(FDM)の特許期限が切れ、誰が生産販売しても特許侵害にならない状態になったのです。同方式を採用したRepRapや3Dシステムズ社の「CUBE」、Makerbot社の「Replicator」など、低価格のいわゆる「ジェネリック3Dプリンター」が一気に普及しました。そしてまた、次の波が押し寄せて来ているのです。

 

2014年2月には、より精度の高い先進的な造形方式「レーザー焼結法(SLS法)」の特許が期限切れを迎えました。「レーザー焼結法」は粉末状の材料にレーザー光線を高出力で照射して焼き固める造形方式で、複雑なデザインの造形や金属素材での造形が可能です。この「レーザー焼結法」の特許切れにより、3Dプリンター業界はさらに成長すると考えられています。

② 「ジェット・ノズル式」の特許も切れる?

3Dシステムズは1997年、ジェット・ノズル式3Dプリンター「ACTUR」を発売しました。ジェット・ノズル方式とは、紙用の2Dプリンターのように細いノズルからプリント液を噴射しながらカラープリントしていく方法です。あれから20年、基本特許は2016年で切れるはずです。改良が進み、今はもうノズルが詰まって使い物にならないこともないでしょう。これを機に、ジェット・ノズル方式の3Dプリンターにも「ジェネリック」が起きる可能性があります。

 

3Dプリンター業界はこれまで、米3Dシステムズ社、ストラタシス社の大手2社が90%のシェアを占めている状況でした。この2500億円ほどの小さな市場に、HP、キヤノンといった売上げ数兆円規模の大企業が参入を表明しました。キャノンもリコーも、これからの3Dプリンター市場はジェット・ノズル方式だと言っています。2Dプリンターでノウハウがある大企業が、フルカラー造形可能なインクジェット方式3Dプリンターを発売するとなったら、大きなアドバンテージがあると言えます。2Dプリンターの勝ち組が、3Dプリンター業界でも「勝てる」可能性は高いかもしれませんね。

 

 

4-2  苦戦する3Dプリンター業界

 

① 3Dプリンター大手2社の動き

米3Dプリンター大手3Dシステムズとストラタシスは、自動車や医療、歯科などへの応用を視野に入れていると言います。一方で3Dシステムズは一般消費者向け製品に見切りをつけ、2015年12月に低価格プリンターの製造を打ち切りました。特許切れで訪れたジェネリック化とともに製品トラブルなどが相次いでしまったのです。株価の下落、経営陣の交代など落ち着かない状況が続き、投資家離れも深刻です。

 

現アメリカ政府が3Dプリンターの研究促進のために6,000万ドルの補助金プログラムを創設したこと(欧州でも同様のプログラムが計画されている)などによって、市場拡大が見込まれるようになった3Dプリンター業界。「ビジネスに革命を起こす」と期待された3Dプリンターは、今後どうなっていくのでしょうか。アメリカ大統領選挙が終わった今、次期大統領の政策と動向が大いに注目されています。

 

② 国内でも低調

 

IT専門調査会社IDC Japanは2016年7月28日、国内3Dプリンティング市場の2015年実績と2020年までの予測を発表しました。3Dプリンター本体では、前年比で出荷台数は20%、売上額は32.5%減少し、苦戦している感は否めません。2014年は出荷台数で2013年に比べて2.6倍、売上額で1.8倍の成長を見せていただけに、余計にそう感じられます。

3Dプリンティング関連サービスについては、企業などからの3D造形サービスに対して継続的な需要が期待でき、造形材料についても市場は拡大傾向にあるとのこと。国内3Dプリンティング市場全体としては2020年までに700億円規模に成長すると予測しています。

 

3Dプリンター市場に関しては様々な調査分析レポートが発表されていますが、正直まだどう転ぶか分からないといった雰囲気が漂います。前述したフルカラーのインクジェット3Dプリンターの動向も気になるところです。

しかし、あまり大きな声では言えませんが・・・ブームに一瞬沸いた2014年、3Dプリンター事業を手掛ける国内工作機械メーカー株を買ってしょっぱい体験をした者としては、今後の業界動向を冷静に注視したいと思います。

 

4-3 「モノ」ではなく「データ」を動かす時代

① 「分散型製造方式」に注目

アムステルダムとニューヨークに本拠を置く3Dハブズ社は、「分散型製造方式」分野のパイオニア企業の1つ。世界156カ国にある約2万9000台の工業用3Dプリンターをオンラインで結ぶネットワークを運営しています。彼らが提案するのは「分散型製造方式」。3Dプリンターで何かを作りたければ、3Dハブズ社のサイトで必要な作業をこなせる最寄りのプリンターを探しファイルを送信。後は完成品を取りに行くだけでOKというシンプルなスタイルです。

 

例えば仮に、3Dプリンターでナイキのシューズを、安くかつ短時間で製造できたとします。顧客が好みのシューズを選べば、最寄りのプリンターにデザインファイルが送信されて、製造が開始されます。顧客は完成品を直接受け取りに行くか、配達してもらうだけ。大量生産による無駄な在庫はなくなり、輸送コストも節減できます。国外に巨大工場を建てる必要も、現地労働者も不要になるのです。

 

この「分散型製造方式」は、2015年の世界経済フォーラムで最も注目すべき技術動向の1つに選定されたアイデア。普及すれば、雇用ばかりか国際政治や気候変動にも大きな影響を及ぼすと言われています。

 

② モノづくりは「アイデア」「コンセプト」勝負の時代へ

前述のナイキの例では、技術が進歩すれば近い将来、本当に3Dプリンターでスニーカーを作れるようになり、実現するかもしれません。いずれ工場は消費の中心地近くの小規模施設になり、ナイキのような企業の役目は、デザインとマーケティング、安定した品質の維持だけになるでしょう。

 

この例でも分かるように、これまでの製造業は「何を作るか?」「なぜ作るのか?」ということより「いかに作るか?」の方が重視されていました。技術力などの問題で「作れるものを作るしかなかった」のです。

しかし今は、インターネットで検索すれば「欲しいものを作ってくれる会社」は選べるほどたくさんあります。3Dデータによる設計、3Dプリンターの技術的な進歩、インターネットの普及や物流システムの発達も無関係とは言えません。あらゆる環境が整備され、「作る」工程と「考える」工程を明確に分けられる時代になったのです。

 

これからは「何を作るか?」「なぜ作るのか?」という部分が重要です。大量生産が主流だったこれまでは半ば無視せざるを得なかった「アイデア」や「コンセプト」「オリジナリティ」といった部分に目を向けることが、今後のモノづくりにおけるキーポイントになっていくでしょう。

 

5.まとめ

 

いかがでしたか?

3Dプリンターがどのようなものなのか、だいたいお分かりいただけたでしょうか。

 

1980年代に生まれ、当初は自動車や航空機などの試作品づくりに使われてた3Dプリンターですが、現在はさまざまな業界でその存在感を示しています。

特に医療分野での注目度は高く、日本でも研究開発が進んでいます。医療機器の構成部品や治療器具そのもの、外科手術のシミュレーションや教育に使う臓器モデル、体内に埋め込んで使う医療機器まで、その用途は幅広いものです。そしていずれは、臓器そのものを造形する域に達し、難治性疾患を根治に導く一助となることは想像に難くありません。

 

3Dプリンターの性能は年々向上しています。精度、強度、出力可能サイズや扱える素材が拡大し、用途もユーザーの裾野もさらに広がることが予想されます。

 

しかし前述の通り、3Dプリンターは「何でも作れる」のではないのです。

「何でも作っていい」わけでもないのです。

 

3Dプリンターで拳銃を作る試みは世界中で行なわれていて、大きく問題視されています。アメリカでは合法とされるセミオートマチック式拳銃を3Dプリンターで作成した男性が、その性能や組み立てている様子をYouTubeで公開しました。今のところ設計図を公開する予定はないそうですが・・・

 

3Dプリンターはあくまでも「道具」のひとつ。使用者のモラルによって、益にも悪にもなる諸刃の剣であることを、ユーザーである私たちも肝に銘じておかなくてはなりませんね。

3Dプリンターが、安全で安心な道具として発展していくことを願うばかりです。