Microsoft 365 を全社で使っている会社では、生成 AI を入れるときの摩擦は「ブラウザに貼り直す手間」と「情シスが配布と権限を握れるか」の2つでした。Anthropic の Claude for Microsoft 365 は、Excel・PowerPoint・Word・Outlook の中に Claude のサイドバーを置くアドオンです。Excel・PowerPoint・Word は2026年5月7日に正式提供になり、Outlook はベータとして同じ日に公開されました。
ただし、情報システム部門や総務の担当者にとっての論点は「便利かどうか」ではありません。誰が配れるのか、Claude はどのファイルまで読むのか、入力した内容はどこに何日残るのか、監査部門に記録を渡せるのか、Microsoft Entra の同意は誰が押すのか。この記事は、Anthropic と Microsoft の公式ドキュメントを2026年10月11日時点で読み、配布前に決めることを順番に整理します。
Google Workspace を使っている会社向けには、姉妹記事のClaude が Google ドキュメント・スプレッドシート・スライドの中で使えるで同じ観点を整理しています。
結論 — 先に要点だけ
- 「アドオン」と「コネクタ」は別物。 アドオンは Office アプリの中で開いているファイルを扱い、コネクタは claude.ai から SharePoint・OneDrive・Outlook・Teams を横断検索する。配布先も同意先も違うので、どちらを入れるかを先に決める。
- Excel・PowerPoint・Word は正式提供、Outlook はベータ。 いずれも Pro・Max・Team・Enterprise の有料プランが対象で、追加課金は無い。会社で入れるなら Team か Enterprise で契約する。
- 配布は Microsoft 365 管理センターの「統合アプリ」から。 全員・特定のグループ・自分だけの3段階で割り当てられ、全社展開の反映は最大24時間かかる。Outlook だけは別途、全体管理者による Microsoft Graph の同意が必要になる。
- Claude は開いているファイルだけを読み、自分ではメールを送らない。 Outlook アドオンは Mail.Send 権限を持たず、下書きは未送信で置かれる。ただし外部ファイルや外部メールのプロンプトインジェクションは公式に警告されている。
- 会話履歴は社員の端末に残り、Enterprise の監査ログには入らない。 監査が必要なら Compliance API か、自社の OpenTelemetry コレクタへの転送を Enterprise で設計する。Team 以下では監査出力の手段が無い。
※ 出典: Collaborate with Claude across Excel, PowerPoint, Word and Outlook(Anthropic・2026年5月7日)(取得 2026-10)/Claude for M365 overview(Anthropic Docs)(取得 2026-10)
前提 — 「アドオン」と「コネクタ」は別物
Anthropic の Microsoft 365 対応は2系統あり、名前が似ているので最初に分けます。
| 観点 | Claude for Microsoft 365(アドオン) | Microsoft 365 コネクタ |
|---|---|---|
| 使う場所 | Excel・PowerPoint・Word・Outlook のサイドバー | claude.ai のチャット(モバイルアプリ含む) |
| 読む範囲 | 開いているファイル、Outlook は開いているメール・予定とメールボックス | SharePoint・OneDrive・Outlook・Teams を横断検索 |
| 書き込み | 開いているファイルを編集。Outlook は下書きまで | 管理者が有効にすればメール送信・予定作成・Teams 投稿まで |
| 対象プラン | Pro・Max・Team・Enterprise | Free・Pro・Max・Team・Enterprise の全プラン |
| 配布する人 | Microsoft 365 管理センターの管理者 | Team・Enterprise は Claude の Owner が組織に追加 |
| Microsoft 側の同意 | Outlook のみ全体管理者の Graph 同意 | 全体管理者のテナント同意が必須 |
※ 出典: Claude for Excel(Anthropic Docs)(取得 2026-10)/Microsoft 365 connector(Anthropic Docs)(取得 2026-10)
コネクタは「Claude は利用者本人が Microsoft 365 で見られるものしか見られない」委任権限で動きます。読み取りが既定で、メール送信などの書き込みツールは管理者が別途有効にしない限り使えません。コネクタ側の管理についてはClaude のコネクタ(MCP)を社内ツールにつなぐ前に管理者が決める6つのことに詳しく書いています。本記事は以降、アドオン側を中心に扱います。
※ 出典: Set up the Microsoft 365 connector(Claude ヘルプ)(取得 2026-10)
アドオンでできること — アプリ別
4つのアドオンは、同じ Claude アカウントでサインインし、サイドバーで会話します。提供状況と対応バージョンは次のとおりです。
| アプリ | 提供状況 | 主な用途 | 対応クライアント |
|---|---|---|---|
| Excel | 正式提供 | セル単位の出典付き回答、数式関係を保った値変更、エラー原因の特定、モデル生成 | Web 版、Windows 版(Microsoft 365 サブスクリプション)、Mac 版 |
| PowerPoint | 正式提供 | 既存テンプレートに沿ったスライドの読み取り・編集・生成 | Web 版、Windows 版、Mac 版 |
| Word | 正式提供 | 選択範囲の編集、変更履歴モードでの修正、コメントへの対応、相手方の赤入れの要約 | Web 版、Windows 版(Version 2205 以降)、Mac 版(16.61 以降) |
| Outlook | ベータ | 受信箱の仕分け、自分の文体での返信下書き、スレッド要約、空き時間の提案 | Web 版、Windows 版(新旧 Outlook)、Mac 版。Exchange Online 必須 |
※ 出典: Claude for Word(Anthropic Docs)(取得 2026-10)/Claude for Outlook(Anthropic Docs)(取得 2026-10)
対応外も明記されています。Excel・Word とも 2016・2019 の永続ライセンス版、iPad 版、Android 版では動きません。Outlook は iOS・Android と、Exchange オンプレミスのメールボックスが対象外です。Excel ではデータテーブルとマクロ(VBA)の操作、Word では旧形式の .doc ファイルが未対応です。
AppSource の掲載は、Excel・PowerPoint・Word が1つの「Claude for Microsoft 365」として、Outlook が別の「Claude for Outlook」として並びます。配布のときに2つの掲載を扱う点は後述します。
※ 出典: Collaborate with Claude across Excel, PowerPoint, Word and Outlook(Anthropic)(取得 2026-10)
Claude は何を読み、何を自分でやらないか
開いているファイルだけ。 Excel・Word の公式ページは、Claude が読むのは今開いているブック・文書だけと書いています。Word では本文のほか、コメント・変更履歴・脚注・表・ブックマークまで読みます。4アプリをまたぐ「アプリ横断」でも、対象は開いているファイルと開いているメールに限られ、Claude がファイルを開く・閉じる・切り替えることはできません。
Outlook は2経路で読む。 開いているメールや予定は Office.js で読み、スレッドの取得・検索・空き時間の確認はブラウザ内で Microsoft Graph を呼びます。Graph のアクセストークンはブラウザの MSAL キャッシュに留まり、Anthropic には送られません。
自分では送らない。 Outlook アドオンは Mail.Send 権限を要求しません。返信・転送・招待はすべて Outlook の作成画面に未送信で置かれ、送信ボタンを押すのは人です。Word の変更履歴モードでは、Claude の修正は削除と挿入の変更履歴として残り、Word の校閲画面で承認・却下できます。Excel では既存データを上書きする前に警告が出ます。
プロンプトインジェクションは公式の警告事項。 Excel・Word・Outlook の各ページに、外部から来たテンプレート・取引先のファイル・外部送信者のメールには Claude を操る隠し指示が仕込まれ得ると書かれています。テストでは、機密情報の抽出・重要データの改変・破壊的操作が確認されたとあり、リスクのある操作では確認が求められます。「信頼できるファイルでだけ使う」「外部ファイルは控えのコピーで試す」が公式の推奨です。
※ 出典: Claude for Outlook — How Claude accesses your mailbox(Anthropic Docs)(取得 2026-10)/Work across M365 apps(Anthropic Docs)(取得 2026-10)
データの扱い — 保存先・保持・学習・監査
ここが情シスと法務が最も確認する箇所です。公式ドキュメントの記述を分けて整理します。
※ 出典: Data storage and retention(Anthropic Docs)(取得 2026-10)
| 項目 | 公式の記述(2026年10月時点) |
|---|---|
| 履歴の上限 | 利用者・組織・アプリごとに直近50件。古いものは自動削除。年数による期限や管理者が設定できる保持期間は無い |
| 入力と出力の保持 | Anthropic 側では受領・生成から30日以内に削除。閉じたばかりのファイルの文脈を保つため、削除後も数時間はキャッシュされる |
| 会話履歴 | 利用者のブラウザ保存領域(IndexedDB)に端末ローカルで保存。Anthropic のサーバーには保存されず、端末間で同期されない。設定からいつでも消せる |
| 組織の保持設定 | アドオンは組織が設定したカスタム保持期間を引き継がない |
| Enterprise 監査ログ | アドオンの活動は Enterprise の監査ログやデータエクスポートに含まれない |
| Compliance API | Enterprise で有効化済みなら、アドオンのセッションは同じ Compliance Access Key で取得できる |
| 利用状況テレメトリ | Anthropic のコレクタに送るのは件数・時間・エラー種別のみ。会話文・文書内容・ファイル名は除外される |
※ 出典: Data storage and retention(Anthropic Docs)(取得 2026-10)/Claude for Excel — Data handling(Anthropic Docs)(取得 2026-10)
Compliance API の記述には食い違いがあります。 Excel・Word・Outlook の各ページは「この対応はパブリックベータ」と書いていますが、Compliance API のセッション取得ページは Claude for Microsoft 365 のセッションを「安定版」とし、リリースノートも2026年9月24日に「Office アプリの Claude for Microsoft 365 セッションのローカルセッション エンドポイントがベータを終了」と記載しています。セッションの product_surface は office_agents/excel・powerpoint・word・outlook で区別され、ローカルセッションの保持は既定6年です。監査部門に「取れる」と説明する前に、実際に Compliance Access Key で office_agents のセッションが返るかを確かめてください。
※ 出典: Retrieve session transcripts(Compliance API)(取得 2026-10)/Release notes(Claude Platform)(取得 2026-10)
OpenTelemetry は「全部出る」前提で設計する。 Enterprise は自社の OpenTelemetry コレクタにアドオンの監査証跡を転送できます。自社コレクタを指定した場合、プロンプト本文・ツールの入出力・文書参照を含む全スパンがフィルタ無しで送られます。Anthropic 側コレクタだけが許可リストで機微属性を落とす設計なので、転送先の保存期間とアクセス権は「会話と文書の本文が入っている」前提で決めます。送信元は各社員のブラウザなので、転送先は CORS に応答できる自前のコレクタである必要があります。
端末に残る資格情報。 サインイン情報は端末のブラウザ保存領域に暗号化されずに置かれ、OS アカウントとディスク暗号化が境界です。端末を再構築・譲渡する前に履歴を書き出す読み取り専用スクリプトが公式プラグインにありますが、書き出しには資格情報も含まれるため、書き出しフォルダは秘密として扱うよう明記されています。
※ 出典: Security, admin auditability, and analytics(Anthropic Docs)(取得 2026-10)
料金 — 追加課金は無く、対象プランの範囲で使う
アドオンの利用は既存の Claude アカウントに紐づき、同じ利用上限の範囲で使います。追加の課金は公式ページに書かれていません。料金ページの比較表では「Claude for Microsoft 365」と「Claude for Microsoft Outlook」が Pro・Max・Team・Enterprise に含まれ、Free には含まれていません。
※ 出典: Claude の料金(claude.com/pricing)(取得 2026-10)
| プラン | 料金(2026年10月時点) | アドオンの扱い |
|---|---|---|
| Free | 無料 | 対象外 |
| Pro | 年払い $17/月($200 前払い)、月払い $20/月 | 含まれる |
| Max | $100/月から | 含まれる |
| Team Standard | 年払い $20/席/月、月払い $25/席/月(2〜150名) | 含まれる |
| Team Premium | 年払い $100/席/月、月払い $125/席/月 | 含まれる |
| Enterprise | $20/席/月(年契約)+ API レートの従量 | 含まれる。監査・Compliance API・OpenTelemetry はこのプランのみ |
※ 出典: Claude の料金(claude.com/pricing)(取得 2026-10)。価格は改定されるため、契約前に公式ページで最新値を確認してください。
Team と Enterprise の違いはClaude Enterprise・Team 料金完全ガイドで整理しています。アドオンの観点では、監査出力(Compliance API・OpenTelemetry)が Enterprise 限定である点が、プラン選定の分かれ目になります。Outlook のページは「Pro・Max・Team では可観測性と監査エクスポートは利用できない」と明記しています。
※ 出典: Claude for Outlook — Data retention and audit(Anthropic Docs)(取得 2026-10)
Microsoft 365 管理センター側の操作 — 配る・止める・同意する
Microsoft 側の操作は3つです。Anthropic の手順と Microsoft Learn の仕様を突き合わせます。
1. 配る — 「統合アプリ」から割り当てる
Anthropic の手順は、管理センターで「設定 → 組織設定 → ユーザーが所有するアプリとサービス」で Office ストアへのアクセスを許可し、「設定 → 統合アプリ」で AppSource から「Claude for Microsoft 365」を探して割り当てる、という流れです。Outlook は「Claude for Outlook」を別に探します。
Microsoft Learn 側の仕様で押さえる点は4つです。
- 配れる管理者は Exchange 管理者と全体管理者。Graph API の権限同意を伴うアドオンは全体管理者だけが同意できる
- 割り当て先は「組織全体」「特定のユーザー/グループ」「自分のみ」。グループは Microsoft 365 グループ・セキュリティグループ・配布グループが使えるが、入れ子になったグループには配れない
- 反映時間は全ユーザーに表示されるまで最大24時間
- 推奨の進め方は、業務部門の代表者と IT 部門の少人数 → 対象拡大 → 全社の段階展開
※ 出典: Deploy and manage Office Add-ins through the integrated apps portal(Microsoft Learn)(取得 2026-10)
Microsoft 365 Apps for business や Apps for enterprise のように Exchange Online を含まない契約では、統合アプリからの配布自体が対象外です。利用者には Business Basic 以上か Office 365/Microsoft 365 Enterprise(E1・E3・E5・F3)のライセンスと、Exchange Online のアクティブなメールボックスが必要です。
※ 出典: Deploy and manage Office Add-ins through the integrated apps portal(Microsoft Learn)(取得 2026-10)/統合アプリ ポータルの概要(Microsoft Learn)(取得 2026-10)
Anthropic は既知の落とし穴を1つ書いています。管理者ロールを Microsoft Entra の特権 ID 管理(PIM)で一時的に有効化している場合、統合アプリの画面がそのロールを認識せず、配布が失敗します。恒久的に割り当てた管理者アカウントから配布する回避策が案内されています。
2. 止める・絞る — Office ストアの利用設定と、マニフェスト配布
社員が自分で入れるのを止めたい場合は、「組織設定 → ユーザーが所有するアプリとサービス」で Word・Excel・PowerPoint のストア利用を無効にします。Outlook は従来の Exchange 管理センターの「ユーザーロール」でアドオン関連の3ロールを外します。どちらも、管理者が配布済みのアドオンには影響しません。
ただし Anthropic は、「Office ストアへのアクセス」を無効にした組織では、管理者が配布したアドオンが利用者に表示されないことがあると注意しています。その場合は、Anthropic が配布しているマニフェスト XML を「カスタムアプリのアップロード → Office アドイン」から直接アップロードして配ります。Word のページでは、マニフェスト配布は数分で使えるようになり、全社展開は最大24時間とされています。
※ 出典: Claude for Word — Deploy with a custom manifest(Anthropic Docs)(取得 2026-10)
3. 同意する — Outlook は全体管理者の Microsoft Graph 同意
Outlook アドオンはメールと予定を Microsoft Graph で読むため、統合アプリの配布とは別に、全体管理者がテナント全体の同意を1回行います。同意画面に出る権限は Mail.ReadWrite・Calendars.Read・User.Read・offline_access の4つです。Mail.Send は含まれません。この手順を省くと、利用者が最初にメールを読ませたときに「管理者の承認が必要」と表示されます。同意は即時に効き、最大24時間かかるのはアドオンの配布側だけです。
第三者のマルチテナントアプリへの同意を社内規程が認めない場合は、自社の Entra テナントにシングルテナントのアプリを登録し、そのクライアント ID をマニフェスト URL に付けて配る方法が用意されています。データの流れは同じで、承認と条件付きアクセスのポリシーが自社所有のアプリの下に置かれる違いです。
※ 出典: Claude for Outlook — Grant Microsoft Graph consent(Anthropic Docs)(取得 2026-10)
コネクタ側の同意は別です。コネクタは Entra の企業アプリケーション「M365 MCP Server for Claude」「M365 MCP Client for Claude」に対する全体管理者のテナント同意が必須で、「割り当てが必要」を「はい」にして利用者やグループを絞れます。条件付きアクセスで MFA やデバイス準拠を要求できる一方、場所やネットワークの制限は非対応とヘルプに書かれています。
※ 出典: Microsoft 365 connector security guide(Claude ヘルプ)(取得 2026-10)
接続経路 — Claude アカウントか、自社クラウド経由か
アドオンは、社員が Claude アカウントでサインインする経路のほかに、自社のクラウド契約を通す経路があります。Amazon Bedrock や Google Cloud Vertex AI 経由で Claude を契約している会社は、こちらを検討することになります。
| 経路 | 仕組み | 向いている会社 |
|---|---|---|
| Claude アカウント | 社員が claude.ai のアカウントでサインインし、Anthropic の API に直接送る | Team・Enterprise で Claude を契約済み。アプリ横断・Compliance API・使用状況分析を使いたい |
| LLM ゲートウェイ | 自社のゲートウェイ(LiteLLM・Portkey・Kong など)を経由して任意のプロバイダへ | すでに Claude Code などでゲートウェイ運用がある |
| Bedrock 直結 | Microsoft Entra ID で認証し、Amazon Bedrock を直接呼ぶ | AWS 契約に寄せたい。IAM の OIDC 設定が必要 |
| Vertex AI 直結 | Google OAuth で認証し、Vertex AI を直接呼ぶ | Google Cloud 契約に寄せたい |
| Azure AI Foundry 直結 | 各利用者の Entra ID トークン(キーレス)かリソースの API キーで呼ぶ | Azure 契約に寄せたい |
※ 出典: Use Claude for M365 with third-party platforms(Anthropic Docs)(取得 2026-10)
自社クラウド経路では社員ごとの Claude アカウントが不要になり、Bedrock・Vertex AI、またはそこへ振り向けるゲートウェイでは、メールボックスや文書の内容が Anthropic に届きません。Azure AI Foundry では Anthropic が Microsoft の独立した処理者としてモデルを運用する、と Outlook のページに書かれています。
引き換えに失うものがあります。Excel から Word へ文脈を持ち回る「アプリ横断」はこの経路では使えません。使用状況分析と費用の把握は、Claude の管理画面ではなくクラウド側の請求画面とゲートウェイのログで行います。マニフェストの URL にゲートウェイのトークンを載せる構成は、全社員の端末に同じ秘密が配られることになるため、Anthropic はブートストラップ エンドポイントか Entra ID サインインを使って資格情報をマニフェストから外すことを推奨しています。
※ 出典: Work across M365 apps(Anthropic Docs)(取得 2026-10)
情シスが先に決める6つのこと
決めること1 — アドオンか、コネクタか、両方か
「Excel の中で作業を速くしたい」ならアドオン、「社内の SharePoint や Teams を横断して探したい」ならコネクタです。両方入れるなら、コネクタの書き込みツール(メール送信・Teams 投稿)を有効にするかを別の決裁にします。アドオンの Outlook は送信しませんが、コネクタは有効化すると送信までできるためです。
決めること2 — どのプランで、誰の Claude アカウントに紐づけるか
監査出力が要るなら Enterprise 一択です。Team では Compliance API も OpenTelemetry も使えません。Bedrock や Vertex AI 経由にする場合は Claude アカウント自体が不要になるので、SSO やアカウント管理の設計が変わります。法人契約の経路の違いはClaude 法人導入 完全ガイドに整理しています。
決めること3 — 配布範囲と、ストアの自己インストールを許すか
Microsoft の推奨どおり、少人数のグループから始めます。社員の自己インストールを止めるなら「ユーザーが所有するアプリとサービス」を無効にし、その代わりにマニフェスト配布を前提にします。Outlook のアドオンは Exchange 管理センターのロール設定が別に要る点を忘れがちです。
決めること4 — アプリ横断を既定で開けるか
「Let Claude work across files」の既定値は、Pro・Max がオン、Team・Enterprise がオフです。Team・Enterprise の Owner は組織設定の Office agents で全体の可否を切り替えられます。開くと、開いている Excel の数字を Word のメモに書く、メールの数字を Excel に入れる、といった移動が1つの会話でできます。閉じたままなら、各アプリの中で完結します。
※ 出典: Work across M365 apps — Manage access as an admin(Anthropic Docs)(取得 2026-10)
決めること5 — 何を入れてよいファイルか、外部ファイルをどう扱うか
Anthropic 自身が「最終成果物を人の確認なしに出す」「監査上重要な計算を検証なしに使う」「機微・規制対象のデータを統制なしに入れる」用途には推奨しないと書いています。社内の情報区分表に「アドオンに入れてよい区分」を1列足すのが現実的です。区分表のひな形は生成 AI の社内利用ガイドラインの作り方にあります。外部から受け取ったファイルやメールは、プロンプトインジェクションの前提で「確認ダイアログを読んでから許可する」を周知します。
決めること6 — 誰が記録を見て、端末の履歴をどう扱うか
会話履歴が端末ローカルにしか無いという性質は、監査にも情報漏えい対策にも効きます。Enterprise なら Compliance API のセッション取得を監査部門の手順に組み込み、必要なら OpenTelemetry コレクタを自社で立てます。端末の再構築・譲渡・プロファイル削除の前に履歴を書き出すかどうかも、端末管理の手順に入れておきます。
導入の手順 — 小さく始めて全社へ
- 契約と経路を確定する。 Team か Enterprise か、Claude アカウント経路か自社クラウド経路か。Enterprise なら Compliance API の有効化と Compliance Access Key の発行を先に済ませる
- ライセンスと環境を確認する。 利用者が Business Basic 以上または Enterprise E1〜F3 で、Exchange Online のメールボックスを持つか。Excel・Word のビルド要件を満たすか
- 管理者アカウントを用意する。 PIM で一時昇格した管理者では配布が失敗するため、恒久的なロールを持つアカウントで作業する
- 「自分のみ」で配布して動作確認する。 統合アプリから Claude for Microsoft 365 を割り当て、サインインとサイドバー表示を確認する
- Outlook を使うなら Graph 同意を行う。 全体管理者が同意リンクを開き、4つの権限を確認して承認する
- パイロット部門に配る。 セキュリティグループ単位で割り当て、反映に最大24時間を見込む
- ルールを周知する。 入れてよいファイル区分、外部ファイルの扱い、確認ダイアログを読む習慣、履歴の消し方
- 監査の経路を確認する。 Enterprise は Compliance API で office_agents のセッションが返るか、OpenTelemetry の転送が届くかを実データで確かめる
- 全社に広げる。 アプリ横断の既定値をどうするか、自己インストールを許すかを決めて展開する
※ 出典: Deploy and manage Office Add-ins — Recommended approach(Microsoft Learn)(取得 2026-10)
管理者向けセルフチェックリスト(12項目)
配布前に、担当者と上長で順に確認します。
- アドオンとコネクタのどちらを入れるかを決裁文書に書いたか
- 契約プランが Pro・Max・Team・Enterprise のいずれかで、Free でないか
- 監査出力が必要な場合、Enterprise で Compliance API を有効化したか
- 利用者のライセンスに Exchange Online が含まれ、メールボックスが有効か
- Excel・Word のバージョン要件を満たさない端末(2016・2019 永続版、iPad)を把握したか
- 配布する管理者のロールが PIM の一時昇格ではなく恒久割り当てか
- 割り当て先が入れ子でないセキュリティグループになっているか
- Outlook を配る場合、全体管理者の Graph 同意を済ませたか。社内規程上、自社の Entra アプリ登録が必要か判断したか
- 「ユーザーが所有するアプリとサービス」の設定と、マニフェスト配布の要否を決めたか
- アプリ横断(Team・Enterprise は既定オフ)を開けるか決めたか
- 情報区分表に「アドオンに入れてよい区分」を足し、外部ファイルの扱いを周知したか
- 端末の再構築・譲渡時に履歴と資格情報をどう扱うかを端末管理手順に入れたか
よくある失敗パターン 5つ
| 失敗 | 何が起きるか | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| Outlook の Graph 同意を飛ばす | 利用者が最初にメールを読ませた瞬間に「管理者の承認が必要」で止まる | 配布と同じ日に全体管理者が同意リンクを開く |
| PIM で昇格した管理者で配布する | 統合アプリがロールを認識せず配布が失敗する | 恒久ロールの管理者アカウントで作業する |
| Office ストアを無効にしたまま AppSource から配る | 配布済みでも利用者に表示されない | マニフェスト XML のアップロード配布に切り替える |
| 「監査ログに出る」と説明する | アドオンの活動は Enterprise 監査ログに含まれない | Compliance API と OpenTelemetry を実データで確認してから説明する |
| 外部の取引先ファイルで広範囲の編集を頼む | 隠し指示による抽出・改変のリスク。公式が警告 | 控えのコピーで試し、確認ダイアログを読んで許可する |
※ 出典: Claude for Excel — Prompt injection risk(Anthropic Docs)(取得 2026-10)
大きなファイルも失敗の元です。Anthropic の性能ページは、Excel は全シートの使用セル合計が100万未満、PowerPoint は100枚未満なら「よく動く」帯とし、それを超えるほど途中で止まる確率が上がるとしています。Claude の1回の読み取りは2,000セルまでで、大きなシートは複数回に分けて読みます。コードを実行する手順の待ち時間は90秒で打ち切られますが、Office 側の処理は続いているため、再度クリックせず待ってから小さな指示に分けるのが公式の案内です。
※ 出典: Performance and limits(Anthropic Docs)(取得 2026-10)
公式ドキュメント・リソース集
- Claude for Microsoft 365 製品ページ — 対象アプリ・プラン・インストール先の入口
- Claude for M365 overview(Anthropic Docs) — Excel・PowerPoint・Word・Outlook 各ページと配布関連ページの索引
- Claude for Excel / Claude for Word / Claude for Outlook — 対応バージョン・配布手順・データの扱い・制限
- Data storage and retention — 端末に残るデータと保持の仕様
- Security, admin auditability, and analytics — OpenTelemetry・使用状況分析・支出追跡
- Use Claude for M365 with third-party platforms — Bedrock・Vertex AI・Azure AI Foundry・ゲートウェイ経由の配布
- Retrieve session transcripts(Compliance API) — office_agents セッションの取得
- Deploy and manage Office Add-ins(Microsoft Learn) — 統合アプリからの配布・管理者ロール・反映時間
- Microsoft 365 connector(Anthropic Docs) / Set up the Microsoft 365 connector(Claude ヘルプ) — コネクタ側の設定と同意
よくある質問
Q. Claude for Microsoft 365 は無料プランでも使えますか?
使えません。Excel・PowerPoint・Word のアドオンは Pro・Max・Team・Enterprise の有料プランで正式提供、Outlook は同じ有料プランでベータ提供です。料金ページの比較表でも Free には含まれていません。会社で使うなら Team か Enterprise で契約し、Microsoft 365 管理センターから配布するのが基本です。
Q. Claude は開いているファイル以外の SharePoint や OneDrive も読みますか?
アドオンは読みません。公式ドキュメントでは、Excel・Word は開いているファイルだけ、Outlook は開いているメールや予定と、Microsoft Graph 経由のメールボックス検索が対象です。SharePoint や OneDrive を横断して探すのは、claude.ai 側の Microsoft 365 コネクタという別の機能です。
Q. Claude for Outlook は勝手にメールを送りますか?
送りません。Outlook アドオンは Mail.Send の権限を要求せず、返信や招待の下書きは Outlook の作成画面に未送信のまま置かれ、送るのは人です。一方、claude.ai 側の Microsoft 365 コネクタは管理者が書き込みツールを有効にするとメール送信ができるので、同じ Outlook でも機能ごとに線引きが違います。
Q. 社員の会話履歴はどこに残り、監査部門は取り出せますか?
会話履歴は各社員の端末のブラウザ保存領域に残り、Anthropic 側には保存されず、端末間で同期もされません。Enterprise で Compliance API を有効にしている組織は、アドオンのセッション書き起こしを同じ Compliance Access Key で取得できます。Team 以下では監査出力の手段がありません。
Q. Amazon Bedrock や Azure AI Foundry 経由の契約でも使えますか?
使えます。LLM ゲートウェイ、Bedrock 直結、Vertex AI 直結、Azure AI Foundry 直結の4経路があり、社員ごとの Claude アカウントは不要です。ただし Excel と Word をまたぐ「アプリ横断」機能はこの経路では使えず、利用量の把握もクラウド側の請求画面で行います。
次の一歩
まず、自社の Microsoft 365 契約が Exchange Online を含むか、利用者の Excel・Word のビルドが要件を満たすかを確認してください。そのうえで「アドオンかコネクタか」「Team か Enterprise か」「Claude アカウントか自社クラウド経由か」の3点を決めれば、配布の手順は上の9ステップのとおりです。
配布範囲の設計、情報区分表への組み込み、Compliance API や OpenTelemetry の監査設計、Bedrock・Vertex AI 経由の構成など、自社の環境に合わせた進め方を書面で確認したい場合は、お問い合わせから状況をお知らせください。契約を前提にしない相談として、現状の整理と次に決めることを文書で返します。法人向けの支援内容はClaude 導入支援にまとめています。
更新履歴
- 2026-10-12: 初版公開