「Cloudflare って CDN と DDoS 対策の会社でしょう」— この認識は、2026 年でほぼ完全に古くなりました。
2026 年 8 月 3〜7 日、Cloudflare は「Agents Week」と銘打った発表週間で、AI エージェントの実行基盤・開発ライフサイクル・決済・専用ブラウザ・MCP 対応といった大型アップデートを 1 週間連続で投下しました。さらに 9 月 15 日には、サイト側の AI クローラーの扱いがデフォルトで変わるという、作る側だけでなく「すべてのサイト運営者」に関わる変更が控えています。
この記事では、この 2 つの動きを 作る側(Cloudflare をエージェント基盤として何が作れるか)と守る側(自社サイトの AI クローラー設定をどうすべきか)に分けて、Cloudflare 公式の一次出典だけで整理します。
結論 — 先に要点だけ
- Cloudflare は「AI エージェントの実行基盤」に本格転換した。エージェントの実行環境・状態保持・ブラウザ・検索・決済・セキュリティまで、一社で積み上げる構えです
- 前回整理した「ハーネス」の文脈で言うと、「ハーネスをどこで動かすか」の有力な答えが増えた。Cloudflare 公式ドキュメント自体が、エージェントの構成部品として「エージェントハーネス」という語を使っています
- 9 月 15 日の新デフォルト(検索は許可・AI 学習とエージェントは広告掲載ページでブロック)は、作る人ではなくサイト運営者の話。Cloudflare 配下のサイトは、期日前に設定の確認が必要です
- AI クローラーを「全部ブロック」は BtoB サイトでは逆効果になりうる。AI 検索経由の言及・引用という新しい接点まで消えるため、目的別の使い分けが着地点です
前提 — 2026 年の Cloudflare は 4 層でできている
| 層 | 役割 | 主なプロダクト |
|---|---|---|
| 配信・保護 | 従来の CDN・セキュリティ | CDN / WAF / DDoS 対策 / Bot 管理 |
| 開発基盤 | サーバーレスでアプリを動かす | Workers / R2 / D1 / Durable Objects / Workflows |
| AI・エージェント | エージェントを作り、動かす | Agents SDK / Workers AI / AI Gateway / AI Search / MCP 対応 |
| コンテンツ制御 | AI クローラーとの関係を決める | AI Crawl Control / Pay Per Crawl |
上 2 層は以前からの姿です。2026 年の「大幅アップデート」は下 2 層で起きています。順に見ていきます。
作る側: Agents Week 2026 で何が発表されたか
2026 年 8 月 3〜7 日の 5 日間で発表された主なものを、テーマ別にまとめます。
| テーマ | 発表 | 何ができるようになるか |
|---|---|---|
| 実行基盤 | @cloudflare/computer、Workers RPC の Python 対応、TCP/gRPC 対応 | エージェントがタスクに応じた実行環境を選べる。リアルタイム音声 AI などの常時接続系にも対応 |
| 開発・運用 | Agent Development Lifecycle(トレーシング・リプレイ・human-in-the-loop 承認) | エージェントの動作を記録・再生し、危険な操作に人の承認を挟む本番運用ができる |
| 決済 | Cloudflare Wallets | エージェントに「財布」を持たせ、上限・制御つきで決済を実行させられる |
| セキュリティ | Agent Access Model、WriteGuard、ID 連動の行動分析 | エージェントのリソースアクセスを設計し、MCP サーバーへの書き込みを細かく制御し、暴走を検知できる |
| Agentic Internet | WebMCP、Kitesurf(エージェント専用ブラウザ)、次世代 MCP、AI Search | 自社サイトをエージェントから呼べるようにし、エージェントに軽量ブラウザと自社データの検索エンジンを持たせられる |
| 統合 | Workers AI と AI Gateway の単一コントロールプレーン化 | 自前 GPU 推論と外部プロバイダー(OpenAI・Anthropic 等)を、観測・課金・ルーティング込みで一元管理できる |
※ 出典: Cloudflare Blog — Everything we launched during Agents Week(2026-08-10 公開・取得 2026-08)/各発表の個別記事は Agents Week タグ一覧(取得 2026-08)
個別の機能名を全部覚える必要はありません。重要なのは方向性で、**「エージェントに必要な部品 — 実行環境・記録と承認・財布・ブラウザ・検索・関所 — を、インフラ側で全部揃える」**という一貫した構えです。
ハーネスの文脈で読むと — 「どこで動かすか」の第 3 の答え
ハーネス解説記事で、エージェント作りの分かれ目は「ハーネスを誰が書くか」「どこで動かすか」の 2 軸だと整理しました。Cloudflare の Agents SDK はこの 2 軸目に対する有力な答えです。
面白いのは、Cloudflare の公式ドキュメントがエージェントの構成部品を「通信チャネル/エージェントハーネス/SDK ランタイム/ツール群」と説明していることです。ハーネスという語彙がベンダーをまたいだ共通言語になりつつあり、その中身 — 状態を持つ実行環境(Durable Objects ベース)、WebSocket 通信、スケジュール実行、ブラウザ・サンドボックス・検索・MCP・決済というツール群 — は、モデルとして Workers AI のほか Anthropic(Claude)等の外部プロバイダーと組み合わせられます。Claude を頭脳に、Cloudflare を体に、という分業がそのまま成立する設計です。 ※ 出典: Cloudflare Docs — Agents(取得 2026-08)
で、実際なにが作れるのか — 現実的なユースケース 5 つ
- 常駐型の社内エージェント — 状態を持ち、スケジュールで動き、Slack・メール・Webhook で呼び出せる「消えない」エージェント。サーバー管理なしで置いておける
- 自社サービスの MCP サーバー化 — 自社の API・データを、Claude などのエージェントから安全に呼べる「道具」として公開する。WebMCP を使えばサイト自体のエージェント対応も視野に入る
- 自社データの AI 検索(AI Search) — 社内ドキュメントや自社サイトを、エージェントが引ける検索エンジンにする。RAG 基盤を自前で組む代わりの選択肢
- ブラウザ操作を伴う自動化 — 調査・フォーム操作・監視のような「人がブラウザでやっていた仕事」を、エージェント専用ブラウザ(Kitesurf)でエージェントに渡す
- エージェント間の少額決済(先行領域) — Wallets でエージェントに上限つきの支払い能力を持たせる。まだ新しい領域なので、実務投入は小さく検証から
どれを選ぶにせよ、ハーネス健全度診断で見た論点 — 検証・権限の関所・失敗の運用 — はプラットフォームが変わってもそのまま付いてきます。基盤選定より先に、その 3 点の設計を固めるのが順番です。
守る側: 9 月 15 日、AI クローラーの扱いがデフォルトで変わる
ここからは作る人の話ではなく、Cloudflare 配下にサイトを持つすべての運営者の話です。
Cloudflare は 2026 年 7 月 1 日の公式発表で、AI トラフィックの新しいデフォルトを予告しました。要点は次のとおりです。
- 2026 年 9 月 15 日から、新規ドメインには「検索クローラーは許可、AI 学習・エージェント用途は広告掲載ページでブロック」という新デフォルトが適用される
- 無料プランのユーザーも、期日までに設定を変更しない場合は新デフォルトへ移行する
- 検索と AI 用途を兼ねる複合クローラーには、最も制限的なルールが適用される
- 設定はダッシュボードのセキュリティ設定から期日前に変更できる
※ 出典: Cloudflare Blog — Your site, your rules: new AI traffic options for all customers(2026-07-01 公開・取得 2026-08)
この制御を担う AI Crawl Control は全プランで利用でき、どの AI クローラーが来ているかの可視化、クローラー単位の許可/ブロック、robots.txt の遵守状況の追跡ができます。さらに、クローラーのアクセスに料金を設定して HTTP 402(Payment Required)で応答する Pay Per Crawl がクローズドベータとして動いています(決済は Cloudflare が仲介)。 ※ 出典: Cloudflare Docs — AI Crawl Control/What is Pay Per Crawl?(いずれも取得 2026-08)
9/15 前チェックリスト — Cloudflare 配下のサイト運営者向け
- 自社ドメインが Cloudflare 経由か確認する(DNS・CDN の契約を把握している人に聞く)
- ダッシュボードで AI Crawl Control の画面を開き、どの AI クローラーが実際に来ているかを一度見る
- 自社サイトの目的(後述の判断表)に照らして、「検索」「AI 学習」「AI エージェント」それぞれの方針を決める
- デフォルト任せにせず、決めた方針をダッシュボードで明示的に設定する(新デフォルトが自社方針と一致する場合も、意思決定の記録として)
- robots.txt の記述と Cloudflare 側の設定が矛盾していないか確認する
- 決めた方針と理由を 1 枚の書面にして社内共有する(「なぜブロック/許可したか」を後から説明できるように)
判断表 — サイト類型別の考え方
| サイト類型 | 検索クローラー | AI 学習 | AI エージェント/AI 検索 | 理由 |
|---|---|---|---|---|
| BtoB リード獲得サイト | 許可 | 方針次第 | 許可寄り | AI 検索・エージェント経由の言及と引用は見込み客との新しい接点。全ブロックはその接点も消す |
| 収益がコンテンツ自体のメディア | 許可 | ブロック寄り | 条件付き(課金も選択肢) | 無断学習はコンテンツ価値の流出。Pay Per Crawl のような課金アクセスが交渉材料になる |
| EC サイト | 許可 | ブロック寄り | 慎重に判断 | 価格・在庫データの扱いが論点。エージェント経由の購入という新チャネルの芽と天秤 |
| ドキュメント・サポートサイト | 許可 | 方針次第 | 許可寄り | AI が自社製品の使い方を正しく答えられることは、サポートコスト削減に直結する |
背景として押さえておきたいのは、Cloudflare 自身が Agents Week の中で「ランキング(検索順位)からレコメンド(AI による推薦)へ」— AI エージェントの時代にサイトが選ばれる準備をせよ — という趣旨の発信をしていることです。つまり同じ会社が「ブロックする道具」と「AI に見つけてもらう準備」の両方を提供しており、どちらに倒すかはサイト運営者の戦略判断として明確に委ねられています。 ※ 出典: Cloudflare Blog — From ranking to recommended: get your site ready to thrive in the age of AI agents(2026-08-06 公開・取得 2026-08)
この「AI にどう見つけてもらうか」は、当サイトで LLMO(AI 検索最適化)として継続的に扱っているテーマです。自社サイトが AI 検索でどう見えているかは、LLMO 無料チェックで現状確認できます。
よくある質問
Q. まず何から触ればいいですか?(作る側)
Agents SDK のチュートリアルから始めるのが最短です。ローカルで動かすだけなら API キーなしで着手できる構成が公式ドキュメントに用意されています。最初の題材は「状態を持つ Slack ボット」「自社ドキュメントの AI 検索」のような、小さくて検証しやすいものを推奨します。
Q. 既に AWS / GCP 中心の会社です。Cloudflare を足す意味はありますか?
役割が違うので排他ではありません。Cloudflare の強みは「エッジで常駐する軽量な状態つきエージェント」と「サイト側のクローラー制御」で、基幹システムやデータ基盤を置き換えるものではありません。まず守る側(AI Crawl Control)だけ使う、という入り方も普通にあります。
Q. 9/15 の変更は Cloudflare を使っていないサイトにも関係ありますか?
直接の設定変更はありません。ただし Cloudflare は世界の膨大なサイトの前段にいるため、「検索は許可・学習はブロック」がウェブの新しい標準挙動に近づくという意味で、AI クローラーと交渉する時代の到来自体は全サイト共通の環境変化です。robots.txt と各 AI 事業者のオプトアウト手段の整理は、Cloudflare 外のサイトでも同様に価値があります。
Q. エージェントからの決済(Wallets)はもう実務で使えますか?
発表されたばかりの領域なので、本番の金銭が動く業務に入れるのは時期尚早です。まず読み取り専用・少額上限のサンドボックスで挙動を検証する段階と考えてください。エージェントに支払い能力を持たせる設計は、ハーネスの権限設計で扱った「破壊的操作の関所」の最たる例です。
次の一歩
作る側の相談 — 常駐エージェント・MCP サーバー化・社内データの AI 検索をどの基盤で組むか — も、守る側の相談 — 9/15 前の AI クローラー方針決めと LLMO への影響整理 — も、30 分・オンライン・無料でお受けしています。対象の業務やサイトを伺って、構成案と期間感をその場でお伝えします。契約前提ではありません。
AI 検索での自社の見え方を先に知りたい場合は、LLMO 無料チェックをどうぞ。
更新履歴
- 2026-08-14: 初版公開