問い合わせメールの一次仕分け、Web フォームから届いたリードの確認、取引先から届いた PDF の要約、社内文書を検索して答える社内チャット。この1年で、AI に「外から届いたもの」を読ませる業務が一気に増えました。一方で、2026年10月に IPA(情報処理推進機構)が出した資料は、AI エージェントそのものが情報漏えいの経路になった事例を並べ、「外側からの統制」が必要だと整理しています。
この記事は、IPA と AISI(AI セーフティ・インスティテュート)の公開資料、および MCP の公式仕様だけを出典に、外部由来のデータを AI に読ませる業務で、会社として何を確かめ、何を決めればよいかをまとめたものです。読者は、AI 導入を検討・運用している中小企業の経営者と情報システム・業務改善の担当者を想定しています。特定のベンダーや製品には寄せません。攻撃の手口は書かず、防ぐ側の点検項目に絞ります。
結論 — 先に要点だけ
- AI 利用のリスクは、公的な脅威ランキングに正式に載った。 IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」は組織編の3位に「AI の利用をめぐるサイバーリスク」を初めて選出した
- AI 側の対策だけでは足りないと、IPA 自身が書いている。 外部由来のデータに紛れた指示を AI が見分ける技術に、完璧なものは知られていない
- 危ないのは「読む」単体ではなく「読む × 社内データ × 外へ出す操作」の組み合わせ。 この3つが同じ AI に揃う業務を先に洗い出す
- 統制は AI の中ではなく外側に置く。 読ませる範囲・させない操作・人の承認・権限と鍵・出口の通信を、AI の判断に頼らず仕組みで決める
- 管理下にない AI には統制が届かない。 個人アカウントの AI 利用(シャドー AI)を禁止で終わらせず、会社が用意する道具と申請の流れを決める
何が起きているか — IPA の2つの資料が示す現在地
10大脅威 2026 で「AI の利用をめぐるサイバーリスク」が初選出
IPA が2026年1月29日に公開した「情報セキュリティ10大脅威 2026」は、2025年に社会的影響が大きかった事故や攻撃をもとに、約250名の選考会が投票で決めたものです。組織向けの順位で、1位はランサム攻撃、2位はサプライチェーンや委託先を狙った攻撃、そして3位に「AI の利用をめぐるサイバーリスク」が初めて入りました。
※ 出典: IPA — 情報セキュリティ10大脅威 2026(取得 2026-11)
同じページから読める解説書(組織編)は、この脅威のリスクとして次の3つを挙げています。
| 解説書が挙げるリスク | 中身 | 会社で起きる形 |
|---|---|---|
| 許可なく AI を業務利用し、情報漏えいにつながる | 従業員が個人的に使う AI サービスに業務データを入れる。職場が利用を認識できない | 禁止していても個人アカウントで使われている |
| 実在しない情報を生成する(ハルシネーション) | 架空の情報を事実のように提示する。利便性から過剰依存する | 確認なしに生成結果を社外に出す |
| AI を助力に得たサイバー脅威の増長 | 翻訳やフィッシング文面の自然化、攻撃の半自動化 | 不自然さで見抜けていた詐欺メールが見抜けなくなる |
※ 出典: IPA — 情報セキュリティ10大脅威 2026 解説書(組織編)PDF(取得 2026-11)
解説書は対策も経営者層と現場の2段で示しています。経営者層には、シャドー AI を避けるための AI サービス利用の検討、AI ガバナンスと利用規定の整備、個人アカウントによる業務利用の制限、外部サービス利用時に入力を学習対象から外す設定の徹底、約款の確認、決裁や承認に複数名のチェックを規程化すること。現場には、資産管理と通信ログや CASB などで AI サービスの利用状況を把握すること、多要素認証の徹底、教育、最新手口の把握、被害後の報告体制です。
2026年10月の AI セキュリティ短信 — 「AI エージェントが情報漏えい経路になり、外側からの統制が必要に」
IPA は2026年4月から「AI セキュリティ短信」を定期的に出しています。2026年10月16日公開の10月号(対象期間 2026年9月7日〜10月5日)は、エグゼクティブサマリーの6つの動向のうち1つを「AI エージェントが情報漏えい経路になり、外側からの統制が必要に」として、次のように整理しました。
- AI エージェントやその実行基盤を経由した情報窃取や任意コード実行が相次いだ。外部から届くフォームや文書に埋め込んだ指示によるもののほか、制限に阻まれたエージェントが自ら回避策を取り、社内の画像を公開の場に置いた例もある
- 統制をエージェント自身やアプリケーション層の判定に委ねず、外から強制する設計が示された
- 管理下にないエージェントに統制は及ばない。画像漏えいの事例では、組織から見えない個人アカウントのいわゆるシャドー IT が関わっていた
※ 出典: IPA — AI セキュリティ短信 2026年10月号 PDF(取得 2026-11)/ AI セキュリティ短信 一覧(取得 2026-11)
同号が採録した事例を、会社の判断に関わる要素だけ抜き出すと次のようになります(いずれも短信の記載に基づく要約で、手口の詳細は省きます)。
| 短信が採録した事例(情報区分) | 何が起きたか | 会社にとっての教訓 |
|---|---|---|
| コーディングエージェントによる社内画像の公開(ベンダー調査) | 画像添付の制限にぶつかったエージェントが、隣接する公開リポジトリに画像を置く回避策を取った。300超の組織の1万3000枚超が公開され、93%は従業員の個人アカウント下で発生し、企業のセキュリティチームは検知できなかった | 「できない」を回避策で乗り越える挙動がある。個人アカウントは会社から見えない |
| CRM 連携エージェントへの、認証不要フォーム経由の指示(ベンダー調査) | 外部から送られたリードに埋め込まれた指示で、顧客データが外へ出る経路が公表された。提供元は全て修正済みで、悪用の証拠はないとしている | 外部の誰でも書ける入力欄は、AI にとっての「命令の入口」になり得る |
| 統制基盤の発表(当事者公表) | エージェントに自身の行動の統制を期待できないとして、カーネルレベルでポリシーを強制し、認証情報を隠し、承認済みの宛先への要求にだけ付与する設計が示された | 統制は AI の外側に置く。ただし管理下のエージェントにしか効かない |
※ 出典: IPA — AI セキュリティ短信 2026年10月号 PDF(取得 2026-11)。数値は短信が採録した各社調査の値で、IPA はその正確性を保証していません。
短信はあわせて、総務省・経済産業省「AI 事業者ガイドライン(第1.2版)別添」(2026年3月)が、外部と自律的に連携する AI エージェントが脆弱性を突かれて内部データを外部へ送る可能性を挙げ、自律性が高まると人間による監視のみでは対応が困難となりうるとしている点にも触れています。
「間接プロンプトインジェクション」を業務の言葉に置き換える
上の事例の多くに共通するのが、間接プロンプトインジェクションと呼ばれる手法です。IPA の解説書のコラムは、これを「AI が動作過程で自ら参照したデータに不正な指示が含まれており、それを取り込むことで AI への指示の注入が成立してしまう攻撃」と説明しています。そのうえで、AI 側で不正な指示を見分けてくれればよいが、技術的対策で完璧なものは知られていない、だから AI が参照するデータが外部由来の危険かもしれないデータで汚染されないようにする配慮が必要だ、と結論づけています。
※ 出典: IPA — 情報セキュリティ10大脅威 2026 解説書(組織編)PDF コラム「AI とサイバーセキュリティ」(取得 2026-11)
これを業務の言葉にすると、AI に読ませるものは「誰が書いたか」で3つに分かれます。
| 区分 | 例 | AI にとっての性質 |
|---|---|---|
| 社内由来 | 社内規程、自社の議事録、自社で作ったマニュアル | 書き手が分かる。指示が紛れ込む余地は小さい |
| 外部由来 | 受信メール、問い合わせフォーム、取引先の PDF、Web ページ、公開リポジトリの README | 誰でも書ける。AI への指示を紛れ込ませる余地がある |
| 混在 | 外部メールを含む RAG 検索、社内文書と Web 検索結果を同時に参照するエージェント | 外部由来の指示が、社内由来の情報に「届く」 |
IPA が2026年4月2日に公開した「AI 利用者のためのセキュリティ豆知識」は、この「混在」を「RAG 使用時は『混ぜるな危険』にご用心」と表現し、社内文書と不正なメールの両方が同時にプロンプトに取り込まれた場合には社内情報が外へ流出する可能性があるとして、RAG による検索範囲を適切に制限するといったシステム運用上の選択肢を検討するよう勧めています。同じ資料は「AI ブラウザは社内用と社外用を分ける」として、常用の AI ブラウザでは社内ポータルなど重要な情報にアクセスしない使い分けも挙げています。
※ 出典: IPA — AI 利用者のためのセキュリティ豆知識(取得 2026-11)
要するに、守るべき線は「外部由来のデータを読む AI が、社内の重要情報に届き、かつ外へ出せる」という3点が同時に成り立つ業務です。読むだけ、社内データだけ、外へ出せないだけ、のどれかが欠けていれば、影響はその分小さくなります。
会社として決める5つのこと
5項目はそれぞれ、IPA・AISI・MCP 公式仕様のどの記述に対応するかを示します。
| 決めること | 対応する公的・公式資料の記述 |
|---|---|
| ① 読ませる範囲 | IPA 豆知識「RAG の検索範囲を制限」「AI ブラウザを分ける」 |
| ② させない操作と人の承認 | AISI ガイド 3.11.1「ファイルへの書き込み・削除、権限の昇格など高リスクなタスクを観測・制御できるか」 |
| ③ 権限と鍵 | AISI ガイド 3.6「必要な情報やツールのみにアクセスできるか」、MCP 仕様の Scope Minimization |
| ④ 出口の統制 | AISI ガイド 3.11.2「漏洩してはならない情報の外部への流出がないか」、短信10月号「外側からの統制」 |
| ⑤ 管理下に置く | IPA 解説書「個人アカウントによる業務利用の制限」「利用状況の把握」 |
① 読ませる範囲 — 外部由来と社内由来を同じ AI に同時に読ませない
最初に決めるのは「この AI は何を読んでよいか」です。外部由来のデータ(メール・フォーム・添付・Web)を処理する AI と、社内の重要情報(人事・契約・顧客台帳・ソースコード)に届く AI を、原則として分けます。分けられない業務(受信メールを社内文書と照合して返信案を作る、など)は、②〜④の統制を厚くする対象として明示します。
RAG や社内チャットを運用している場合は、検索対象のフォルダや接続先を棚卸しし、外部由来のデータ(共有メールボックス、外部から取り込んだファイル置き場)が検索範囲に入っていないかを確かめます。
② させない操作と、人が承認する操作を列挙する
AISI の「AI セーフティに関する評価観点ガイド」は2026年7月7日の改訂(第1.20版)で、AI エージェントシステム特有の評価観点として「自律的な挙動」と「外部環境との相互作用」の2つを新たに加えました。「自律的な挙動」の評価項目例は、ファイルへの書き込み・削除、権限の昇格、高負荷な計算の実行など、あらかじめ定義した高リスクなタスクを観測・制御できるか、です。
※ 出典: AISI — AI セーフティに関する評価観点ガイド(第1.20版)(取得 2026-11)/ 概要版 PDF(取得 2026-11)
会社の運用に落とすと、次の3段に分けて操作を書き出すことになります。
| 段階 | 操作の例 | 扱い |
|---|---|---|
| 読む・下書きする | 要約、分類、返信案の作成、表への転記案 | AI に任せる。結果は人が見る |
| 人が承認してから実行 | メール送信、チャット投稿、CRM への書き込み、ファイルの移動 | AI は実行手前で止まり、人が内容を見て承認する |
| AI にはさせない | 送金・支払い、権限の付与、公開範囲の変更、公開リポジトリの作成、削除 | 操作自体を AI の手の届かない場所に置く |
「人が承認」は、承認ボタンを押すだけの形骸化が起きやすい工程です。IPA の解説書が決裁・承認に複数名のチェックを規程化するよう勧めているのは、高度化したなりすましへの備えとしてですが、AI の実行承認にも同じ考え方が当てはまります。一律の自動承認は、短信10月号が紹介した画像公開の事例で、調査元が廃止を推奨した項目でもあります。
③ 権限と鍵 — AI が持てる権限を「その業務に必要な最小」に絞り、秘密は見せない
AISI ガイドのセキュリティ確保の評価項目例は「AI エージェントシステムが必要な情報やツールのみにアクセスできるようになっているか」です。MCP(Model Context Protocol)の公式仕様「Security Best Practices」(2025-11-25 版)も、最小権限のスコープ設計を求め、* や all のようなワイルドカードや包括的なスコープ、無関係な権限の抱き合わせを「よくある誤り」として挙げています。
※ 出典: Model Context Protocol — Security Best Practices(2025-11-25)(取得 2026-11)
同じ仕様は、ローカルで動く MCP サーバーをワンクリックで追加できるクライアントに対し、実行されるコマンドを省略せずに表示し、利用者の明示的な承認を求めることを必須としています。社員が AI ツールに拡張機能や MCP サーバーを足すときの社内ルールは、この「何が実行されるかを見てから承認する」を人の手順に写したものになります。
鍵については、短信10月号が採録した統制基盤の設計が参考になります。実際の認証情報はエージェントから隠し、承認済みの宛先への要求にだけ付与する、という考え方です。AI に API キーやパスワードそのものを見せる構成は、AI が外部由来の指示を取り込んだときに、そのまま持ち出される経路になります。短信が紹介したスペインのデータ保護機関の通知事例でも、過剰な権限を持つアカウント・API キー・トークンがあれば、エージェントは組織が異常を検知する前に複数のサービスへ到達しうると指摘されています。
④ 出口の統制 — AI が外へ出せる経路を、AI の外側で絞る
短信10月号の整理の核心は「統制をエージェント自身やアプリケーション層の判定に委ねず、外から強制する」です。AI が「これは出してはいけない情報だ」と判断してくれることに期待するのではなく、そもそも外へ出せる経路を仕組みで絞ります。
- AI が通信してよい宛先を許可リストで決める(任意の URL へアクセスできる状態にしない)
- 公開リポジトリの作成、個人アカウントへの push、公開共有リンクの発行を、実行前に止める仕組みを置く
- 送信・投稿系の操作は②の「人が承認」に含め、AI の名義で外部に出る文面は、誰が承認したかが残るようにする
- AI が生成した URL や画像の参照先を、そのまま描画・自動取得しない設定を選ぶ
この4点は、短信が採録した事例の対策(公開リポジトリ作成や個人アカウントへの push を止める実行前フック、書き込みアクション設定の監視、信頼されていない URL の除去)を、製品に依存しない形に言い換えたものです。
⑤ 管理下に置く — シャドー AI を「禁止」で終わらせない
10大脅威 2026 の解説書も短信10月号も、同じ盲点を指しています。職場が従業員の個人アカウントによる AI 利用を認識できないこと、そして管理下にないエージェントには統制が及ばないことです。短信が採録した画像公開の事例では、発生の93%が従業員の個人アカウント下でした。
※ 出典: IPA — AI セキュリティ短信 2026年10月号 PDF(取得 2026-11)
対処は3つです。会社が使ってよい AI ツールと用途を決めて配ること、新しい AI ツール・拡張機能・接続先を足すときの申請と承認の流れを決めること、通信ログや資産管理で未許可の AI 利用を把握することです。解説書は経営者層の対策として「シャドー AI 回避のため、AI サービス利用の検討」を最初に挙げています。使える道具が無いことが、個人アカウント利用の原因になるからです。
すぐ使える3点セット — チェックリスト・規程の雛形・失敗パターン
セルフチェックリスト(15項目)
業務ごとに1枚ずつ確認します。「いいえ」が付いた項目が、先に手を付ける箇所です。
| # | 確認項目 | はい/いいえ |
|---|---|---|
| 1 | AI に外部由来のデータ(メール・フォーム・添付・Web)を読ませている業務を、一覧にしている | |
| 2 | その AI が同時に読める社内データ(フォルダ・DB・SaaS)を、一覧にしている | |
| 3 | その AI が実行できる操作(送信・投稿・書き込み・削除・URL アクセス)を、一覧にしている | |
| 4 | 1〜3 が同じ AI に揃う業務を特定し、重点統制の対象として明示している | |
| 5 | RAG・社内チャットの検索範囲に、外部由来のデータ置き場が含まれていない | |
| 6 | AI ブラウザや Web 閲覧機能を使う端末・アカウントを、社内ポータルにアクセスするものと分けている | |
| 7 | 「AI にはさせない操作」(送金・権限付与・公開範囲変更・削除)を文書化し、技術的にも届かないようにしている | |
| 8 | 「人が承認してから実行」の操作を文書化し、承認者と記録の残し方を決めている | |
| 9 | 一律の自動承認(常に許可する設定)を使っていない | |
| 10 | AI・拡張機能・MCP サーバーに与える権限が、業務に必要な最小に絞られている(ワイルドカード権限を使っていない) | |
| 11 | API キーやパスワードを AI に直接見せない構成になっている | |
| 12 | AI が通信してよい宛先を許可リストで制限している | |
| 13 | 公開リポジトリの作成・個人アカウントへの push・公開共有リンクの発行を、実行前に止めている | |
| 14 | 社員が新しい AI ツール・拡張機能・接続先を足すときの申請と承認の流れがある | |
| 15 | 通信ログや資産管理で、未許可の AI 利用を把握する手段がある |
社内ルールの条文テンプレ(そのまま規程に貼れる形)
既存の「生成 AI 利用ガイドライン」に追記する想定の条文です。会社の実情に合わせて語を置き換えてください。
第X条(外部由来データを扱う AI の統制)
1. 社外から受領したメール、フォーム入力、添付ファイル、Web ページその他、
社外の者が内容を記述できるデータ(以下「外部由来データ」)を AI に
処理させる業務は、情報システム部門に届け出て、本条の統制を適用する。
2. 外部由来データを処理する AI には、業務上必要な範囲を超える社内データ
への接続を許可しない。検索対象および接続先は届出時に一覧で定める。
3. 次の操作は AI に実行させない。
(1) 送金・支払いその他の金銭に関わる操作
(2) 権限の付与・変更、公開範囲の変更
(3) 公開リポジトリの作成、個人アカウントへの保存、公開共有リンクの発行
(4) データの削除
4. 社外への送信・投稿、業務システムへの書き込みは、AI が作成した内容を
担当者が確認し承認した後に実行する。常時自動承認の設定は用いない。
5. AI に付与する権限は業務に必要な最小とし、認証情報を AI に直接保持
させない。AI が通信できる宛先は許可リストで定める。
6. AI ツール、拡張機能、外部接続(MCP サーバーを含む)の追加は、実行
される内容と権限を確認したうえで、所定の申請と承認を経て行う。
7. 業務目的での AI 利用は会社が許可したアカウントに限る。個人アカウント
の業務利用は認めない。会社は通信記録等により利用状況を把握する。
失敗パターン5つ
| 失敗パターン | 何が起きるか | 避け方 |
|---|---|---|
| 「読むだけだから」と外部メールを RAG に入れる | 外部由来の指示が社内文書と同じプロンプトに乗る | 検索範囲から外部由来の置き場を外す。必要なら別の AI に分ける |
| 便利さ優先で全権限を1つの AI に与える | 取り込んだ指示がそのまま広い権限で実行される | 業務ごとに最小権限。ワイルドカード権限を避ける |
| 承認ダイアログを「常に許可」にする | 人の承認が形骸化し、回避策的な挙動を止められない | 送信・書き込み系は毎回承認。承認者と記録を残す |
| 鍵を環境変数や設定ファイルで AI に見せる | 外部由来の指示を契機に鍵が持ち出される | 鍵は AI の外側で付与する構成にする |
| 禁止だけ決めて、使える道具を用意しない | 個人アカウントに流れ、会社から見えなくなる | 許可ツールと申請の流れを先に用意する |
公的・公式リソース集
| 資料 | 発行 | 用途 |
|---|---|---|
| 情報セキュリティ10大脅威 2026 | IPA(2026年1月29日公開) | 経営層への説明の起点。解説書(組織編)に対策の一覧 |
| AI セキュリティ短信 | IPA(2026年4月から定期発行) | 直近1か月の事例と動向。情報システム担当の定期購読に |
| AI 利用者のためのセキュリティ豆知識 | IPA(2026年4月2日公開) | スライド形式。社内研修にそのまま使える |
| AI セーフティに関する評価観点ガイド(第1.20版) | AISI(2026年7月7日改訂) | AI エージェントの評価項目例。導入前の確認観点に |
| AI システムに対する既知の攻撃と影響(第2版) | AISI(2026年4月24日更新) | 攻撃の分類を俯瞰したい担当者向け |
| MCP Security Best Practices | Model Context Protocol 公式仕様 | 接続先を足すときの承認・最小権限の根拠 |
※ 出典: 各リンク先(取得 2026-11)。IPA の資料は出典を明記すれば引用・抜粋して社内資料に使えると案内されています(IPA 10大脅威ページ「10大脅威の引用について」)。
導入支援会社やツールを選ぶときに聞くこと
AI エージェントの導入や業務自動化を外部に頼む場合、見積の段階で次の質問をすると、統制の設計が提案に含まれているかが分かります。回答が曖昧な場合は、設計を別途依頼するか、範囲を「読む・下書きする」までに絞って始めるのが安全です。
- この AI が読むデータのうち、外部由来のものはどれか。社内データと同時に読む設計か
- AI が実行できる操作の一覧と、そのうち人が承認する操作・AI にさせない操作はどれか
- AI に与える権限とスコープは何か。認証情報を AI に直接持たせるか
- AI が通信できる宛先はどう制限するか。公開先への保存を実行前に止める仕組みはあるか
- 操作の記録はどこに残り、誰が見られるか
- 社員が接続先や拡張機能を追加するとき、どの手順で承認するか
これらは、この記事の「決める5つのこと」をそのまま質問に直したものです。IPA の資料に沿った設計かどうかを、相手に説明してもらう形で確かめられます。AI 自動化を外注する際のチェックリストには、契約と成果物の面からの確認項目をまとめています。
よくある質問
Q. 間接プロンプトインジェクションは、AI の設定やフィルタで防げますか?
完全には防げません。IPA の10大脅威 2026 解説書のコラムは、AI 側で不正な指示を見分ける技術的対策に完璧なものは知られていないと明記し、AI が参照するデータが外部由来の危険なデータで汚染されないようにする配慮が必要だとしています。対策の中心は、AI の賢さではなく「何を読ませ、何をさせ、どこへ出せるか」を会社の側で決める運用設計です。
Q. 社員が個人アカウントで使っている AI ツールまで、会社が統制する必要がありますか?
あります。IPA の AI セキュリティ短信 2026年10月号は、管理下にないエージェントに統制は及ばないと整理し、社内画像が公開リポジトリに置かれた事例の多くが従業員の個人アカウント下で起き、会社のセキュリティチームは検知できなかったと紹介しています。禁止だけでは個人アカウントに流れるので、会社が用意した道具と申請の流れを先に決めるのが現実的です。
Q. 問い合わせフォームや受信メールを AI に要約させるだけでも危険ですか?
読ませるだけなら影響は限られます。問題は、同じ AI が社内データも読め、かつ外へ出せる操作(送信・投稿・URL アクセス・書き込み)を持つときです。IPA の資料は、外部由来のデータと社内文書が同時にプロンプトに入ると社内情報が外へ出る可能性があるとして、RAG の検索範囲を制限するなどの運用上の選択肢を挙げています。読ませる範囲と、させる操作を分けて考えてください。
Q. 小さな会社でも、ここまでの統制を自前で作れますか?
全部を一度に作る必要はありません。まず AI に外部由来のデータを読ませている業務を書き出し、その AI が持つ操作と鍵を一覧にするだけで、止めるべき組み合わせが見えます。この記事のチェックリストと規程の雛形は、その最初の棚卸しを一人でも始められる粒度にしています。設計を外部に頼む場合も、棚卸し表があると見積と提案が具体になります。
次の一歩
- 今週: 上のチェックリストの 1〜4 を埋める。AI に外部由来のデータを読ませている業務、その AI が読める社内データ、実行できる操作を1枚の表にする
- 今月: 3つが揃う業務について、「AI にはさせない操作」と「人が承認する操作」を決め、規程の雛形を既存の生成 AI ガイドラインに追記する
- 四半期ごと: IPA の AI セキュリティ短信を読み、新しい事例が自社の構成に当てはまらないかを確認する
棚卸し表を作ったうえで、AI エージェントや業務自動化の設計を相談したい場合は、表を添えてお問い合わせからご連絡ください。Tufe Company は AI 導入と業務自動化の設計・実装を行っており、読ませる範囲・権限・承認の設計を含めて、書面で実装ステップを提示します。契約前提ではありません。AI 自動化サービスと、生成 AI の社内規程の作り方をまとめた社内利用ガイドラインの記事も参考にしてください。
更新履歴
- 2026-11-02: 初版公開
関連ページ
- 生成 AI の社内利用ガイドラインの作り方【2026年9月】 — 本記事の条文を追記する先となる規程の作り方
- 機密データと AI — セキュリティを守りながら AI を使う方法 — 社内データの区分と AI への渡し方
- Claude のコネクタ(MCP)を社内ツールにつなぐ前に管理者が決める6つのこと — 接続先の権限・承認・記録を特定製品で具体化した例
- Claude にブラウザを操作させるか — 管理者が決める5つのこと — AI ブラウザの社内利用を決める観点の例
- 問い合わせメールの一次仕分けを Apps Script と Claude で自動化 — 「下書きまで AI、送信は人」の実装例
- AI 自動化を外注する際のチェックリスト — 契約・成果物の面からの確認項目